side鋼
「ふッ・・・つぅ・・・ううッ。」
最奥をえぐられて、彼が苦しそうな声を上げる。
上気した頬、潤んだ瞳、まるで口付けをねだる様に薄く開かれた唇。
全身で誘っておいて、心は別の誰かを求める彼。
「は・・・はがね・・・の。」
力の入らない手を必死に伸ばして、彼は俺にすがり付いてくる。
――――――嘘つき。
本当に縋りつきたいのは俺じゃないくせに。
なんでそんなに切ない眼差しで、見つめてくるんだよ。
そんなんじゃ、男は誰だって誤解するだろう?
あんたが好きなのは俺なんだって・・・そう誤解しちまうだろ?
頼むから俺に期待させないでくれ。
分かっているんだ。彼が求めているのは、俺じゃない。
俺は代わりでしかない。
分かっているのに、俺はこの手を振り解けない。
ただ、身体を重ねるだけの関係。そこに心は存在しないむなしい行為。
だけど、自分からこの関係を断ち切ることのできない、弱い俺。
求められるままに彼を抱き。ねだられるまま彼に快楽を与える。
互いの心を置き去りに、今日も繰り返される行為。
縋るように伸ばされる腕の求めに応えて、ぎゅっと俺は彼の細い肢体を抱きしめる。
まだ成長過程にある俺の腕でも、包み込める彼の身体。
また痩せた・・・・。
抱きしめたまま、ぼんやりと思う。
抱くたびに痩せていく身体に、切なさがこみ上げる。
そんなに、彼は苦しい恋をしているのだろうか?
それならば、いっそのこと俺を好きになれよ。
俺だったら、絶対あんたの事を苦しめたりしないから。
ああ。このまま、この腕の中に閉じ込めてしまえればいいのにと、詮のない事を考える。
誰の目にも触れさせず、誰にもあわせず。
そうしたら、俺はあんたの唯一になれるのだろうか?
その視界に映るものすべてを排除できたのなら・・・・・。
「鋼の?」
動きを止めた俺を不思議に思ったのだろう。抱きしめられた身体を少し離して、彼が問いかけてくる。
綺麗な漆黒の瞳に、今は俺だけが映っている。
こんなに近くに居るのに、誰よりも遠い彼。
「なんでもない・・・。」
俺は緩く首を振って、行為を再開させる。
「鋼の・・・?ん・・・・ふぁ・・・。」
俺の態度に、いまいち腑に落ちていない彼の声は、再開された動きにすぐに甘いものへと摩り替わっていく。
伝わらない俺の気持ち。あんたにとって俺は、快楽を求めるだけの関係。
それでも、俺はあんたを愛してる。あんただけを誰よりも愛しているんだよ・・・。
+ + +
side焔
「ふッ・・・つぅ・・・ううッ。」
彼に最奥を貫かれて、私の口から意識せず声が漏れる。
何度も重ねた行為なのに、やはり最初は辛い。
「大佐・・・辛い?」
機械鎧の冷たい手が、私の前髪を優しく掻き揚げ、黄金の瞳が気遣うように覗き込んでくる。
それだけのことに、泣きそうになる。
そんなに優しく扱うな。また、君への気持ちが加速する。
ああ・・・またあの熱い眼差しが、私を見つめている。
彼の目に、私はどんな風に映っているのだろう。
あさましく彼を求めているように、見られてはいないだろうか。
彼に気取られてはいけない。
――――――私は彼が好きだと言うことを。
きっと告げたら彼は、私から離れていってしまう。
彼が私を抱くのはただの興味本位。私にも覚えがあるからわかるのだ。
丁度彼ぐらいの年齢は、年上の存在に興味を抱くものだということを。
私はたまたま、彼の興味の対象になっただけ。
それなのに、本気になってしまった私はなんと愚かなのだろう。
ああ、熱い。彼に触れられた箇所から、火傷しそうな熱が伝わってくる。
真っ直ぐな彼。その存在はまるで太陽のようで。
その瞳に見つめられただけで身体が震える。彼の腕に抱きしめられたいと、心が勝手に叫ぶ。
彼を失いたくないから。
真実は、気取られてはいけない、悟られてはならない。
だけど目の眩む快楽の前では、理性を保つことはとても困難で。
「は・・・はがね・・・の。」
無意識に彼を求めて伸ばしてしまった手を、彼が捕まえてくれる
そして愛されていると錯覚しそうなほど、彼が私を優しく抱きしめてくれるから、私はつい本当の気持ちを告げてしまいたくなる。
そんなことをすれば、この関係は終わってしまうのに。
だから私は、別の男が好きな振りをする。
彼が離れていってしまわないように。私から、興味を失ってしまわないように。
・・・・・・・苦しい。
いつか離れていってしまうと分かっている彼と、この関係を続けることが。
だけど彼との関係を、終わりに出来ない、弱い私。
この瞬間だけは、彼が私だけを見つめてくれるから。
彼の心の唯一になれる時間だから。
君はいつか私を置いていくんだろうな・・・・・。
いつか訪れるであろうその瞬間を想像して、ゾクリと私の中を悪寒が走りぬける。
ああ、いっそこの腕に抱かれたまま、死んでしまえればいいのにと、詮のない事を考える
こんなに弱い自分は知らない。彼に抱かれるたびに弱くなる自分。
それでも愛している鋼の。私は、君だけを愛しているのだよ・・・。
