何だか身体がとても重い・・・・・・。
覚醒しきらない意識の片隅で、私はぼんやりと考える。
ふわふわと、夢と現実の狭間を漂うような不思議な感覚。
「・・・・・・・・・大佐?」
不意に私の右側で聞きなれた声がする。
この声は誰のものだろう?
鋼のの声のような気もするが、彼にしては酷く元気がないような気がする。
どうしたんだ?そんな声を出して君らしくもない。
そう言ってやりたいのに、私の喉から音が出ることはない。
もどかしい思いに駆られる私の視界の片隅に、ぼんやりと黄金の光が差し込む。
ああ・・・・・・この闇を振り払うは光は、間違いなく彼のものだ。
焔の錬金術師と言われた私より、なお鮮やかに燃える黄金の光。
「大佐?」
その声に導かれるように、ゆっくりと私の意識が浮上していった。



目を開けると、目の前には鋼のの顔があった。
想像以上の至近距離にある鋼のの顔に、一体何事かと思う間もなく。
鋼のの顔は、くしゃりと泣きそうに歪んだ。
「・・・・・・・鋼の?」
「良かった・・・・・・目・・・・覚めたんだな」
どうしたのだと、問いかけようとした私の疑問は、言葉になる前に鋼のの言葉に遮られてしまった。
心から安堵したような鋼のの声に、私はますます混乱を極める。
そもそも、なんで私はこんなところに寝ているのだ?
視界一杯に広がる真っ白な天井は、自宅のものでもなければ仮眠室のものでもない。
「ここはどこだ?」
問いかけた声はとてもひび割れていて、私はその事に驚く。
そういえば、身体も先ほどから酷く重く感じる。
腕を動かそうしても、まるで腕が鉛にでもなってしまったかのように、自分の意思ではピクリとも動かせない。
「どこって、病院に決まってるだろ」
病院?なんで私は病院に寝かされているんだ?
しかし、そんな事より気になるのは、鋼ののこの態度だ。
「・・・・・・鋼の?何か怒っているのか?」
ぶっきらぼうな鋼のの答えに、私は彼がとても怒っているのだと気がついた。
「怒ってる?怒ってるに決まってるだろうッ!!あんたなんで・・・・なんであそこで飛び出してきたんだよ!!」
泣きそうな顔のまま怒り出した鋼のの姿に、私は漸く意識を失う前のことを思い出す。
そうだ、私は鋼のを庇って撃たれたのだ。
テロリストを追い詰めたまでは良いが、最後の最後でヤケをおこした奴らが銃を乱射して。
とっさに私は鋼のを庇って・・・・・・・・意識が途切れる寸前に鋼のの必死な声を聞いたような気もするが、そこから先の記憶が私には無い。
が、こうして病院のベットに横たわっているということは、どうやらしっかりと弾には当たってしまったようだ。
先ほどから身体が重いと思っていたのは、怪我の為身体が動かなかったせいかと、ようやく合点がいく。
・・・・・・・合点がいったからといって、事態が変わるわけではないのだが。

「なんでといわれてもな・・・・・。とっさの行動だからな。それを責められても・・・・・・」
本当に鋼のを庇ったのは、無意識のことでそれを何故と聞かれても、私には答えようが無い。
「だからあんたは無能って言われるんだよ!!司令官が、下っ端庇って怪我してどうすんだよ!!」
「むっ・・・・無能って、それは酷いぞ!鋼の!!」
せっかく庇ってやった本人に無能呼ばわりされて、思わず私の声も荒くなる。
「酷いのはあんただよ!!勝手に俺を庇って大怪我して!!あんたが気がつくまで、俺がどんな思いでいたと思ってんだよッ!!?」
「そ・・・れは・・・・・・・・。」
悲痛なまでの鋼のの叫びに、私は返す言葉を失う。
「目の前であんたが撃たれて、ぐったりしたあんたの身体抱えて、俺がどれ程の恐怖を味わったと・・・・・、あんたがいなくなったらと思ったら、俺・・・・・・・、俺・・・・・・・・。」
「鋼の・・・・・・・。」
俯いてしまった鋼のに、どう声をかければいいのか分からなくて、私は途方に暮れる。
大佐だ国家錬金術師だと大層な肩書きを持っていても、こんな時どんな言葉をかけて安心させてやればいいのかさえ分からない、自分の不甲斐なさが情けない。
「・・・・・・・・俺、今まで言ってなかったけど、大佐に一つ言っておきたい事があるんだ。」
俯いたままの鋼のが、唐突にポツリと呟く。
「言っておきたいこと?」
鋼のが何を言い出すのか、見当もつかなくて私は首を傾げる。
「今後万が一大佐が死ぬようなことがあったら、俺、今度はあんたを作るから。」
「鋼のッ!?それは・・・・・・ッ!!」
顔を上げた鋼ののとんでもない発言に、私は息を呑む。
人体錬成。
それは神の領域に触れる、人が絶対に犯してはならない禁忌。
「そう、今度は腕を持っていかれるか、足を持っていかれるか・・・。下手したら全身かもな。」
何を馬鹿なと慌てる私をよそに、鋼のは平然と言い放つ。
「君はまた過ちを繰り返す気か!?」
「そう思ったら、あんたは勝手に死ねないだろう?」
私を射抜くように見つめて、鋼のが言い放つ。
「俺に過ちを繰り返させたくなければ、あんたは絶対に死ぬな!!勝手に俺の前からいなくなるなんて、絶対に許さない!!」
「は・・・・がねの・・・・・。」
鋼のはそっと左手を伸ばして、私に触れる。
私より幾分高めの温度がとても心地よい。
「なぁ、何度も言っただろう?俺はあんたが好きなんだ。また大切なものを失って生きていけるほど、俺は強くなんてねぇんだよ・・・。」
大切なものを失う辛さを知っているからこそ、鋼のは強くて時に脆い。
「・・・・・・・・・・すまなかったな。」
謝罪は意識せず口から滑り出ていた。
確かに今回の件に関しては、私は不用意だったのかも知れない。
私が傷つくことによって、こんなにも鋼のの心に影響を及ぼすとは思っていなかったのだ。
鋼のは驚いたように私を見つめた後、そっと両手を伸ばしてベットに横たわったままの私を抱きしめる。
傷を気遣ってか、その動作はとても優しくて。
薬が効いているせいか、私の腕はピクリとも動かなくて抱き返してやれないのが悔しい。
「お願いだから、死なないで。まだまだあんたに庇われてるけど、いつか、いつかきっと、あんたを守れるぐらい強くなって見せるから。だから、待っていて・・・・。俺を置いていかないで・・・・・・。」
鋼のの真摯な告白に、胸が温かいもので満たされていく。
こんなに強く私のことを思ってくれる存在に、愛しさが募る。
鋼の。
相手においていかれることに怯えているのは、君だけじゃない。
どうかそのことだけは覚えていて。



                                                END



うーーーん。微妙に想像とは違う話になってしまったか?(−−;
えー拍手のほうで、エドをかばって怪我をする大佐とそれを怒るエドが見たいと言われたで書いてみました。
私のほうでも大佐がエドを庇う小説は考えてあったのですが、そちらはエドが怒るシーンは無いので、
改めて考えてみたのですが、あまり怒ってないな・・・エド・・・(汗)
す・・・すいません。今回は、これぐらいで許してやってください。
はい。私が考えていた、大佐がエドを庇う話というのは、いずれまた書きますので(笑)