「だーーーーーーーーーーッ!!!このクソオヤジ!!!誰がてめぇの後なんて継いでやるかーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!」
店の中においてある薬のビンが、ビリビリと震えるほどの大絶叫をあげて、今日も今日とてエドワードは叫んでいた。
普通なら何事かと、家人どころか通行人さえ振り返りそうなものだが。
すでにこれが日常茶飯事となっているこの薬問屋近辺では、さして珍しい光景でもないのか、道行く人々はああまた始まった・・・とクスリと笑い声を上げて去っていくだけだった。
そしてクソオヤジと罵られた本人はといえば。
「毎日毎日怒鳴り飛ばして、疲れないか?エドワード?」
エドワードの怒りもどこへやら、のほほんと首をかしげて笑っている。
「だ・れ・の・せいで、毎日毎日同じ事を繰り返してると思ってるんだよッ!?」
額に青筋を浮かべながらにっこりと微笑むエドワードは、気の弱いものが見たら間違いなく腰を抜かすであろうという程、壮絶な殺気を放っていた。
ひくひくと引きつる頬が、確実に彼の怒りを表している。
が、こんなもので目の前の人物が動じてくれていれば、エドワードが父ホーエンハイムと毎日のように言い争うことはきっとなかっただろう。
「さぁなぁ・・・。しいて言えば、この家を継ぐのを嫌がってる、背の小さい・・・・じゃなかった、度量の小さい息子のせいか?」
「だぁれが、ピンセットでつまめる豆粒ドチビかぁ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!みてろよ!!いつかてめぇの背ぇなんざぁ追い越して、見下ろしてやるんだからなぁ!!!!」
捨て台詞をはいて、エドワードはクルリと背を向けると、どすどすと床を踏み抜きそうな勢いで踏みつけて、ホーエンハイムの前から去ってく。
もはや論点が摩り替わってしまっていることにすら、本人は気がついていないらしい。
「はっはっは。エドワードは相変わらず面白いなぁ・・・」
頭から湯気を出したまま去っていく息子の背を見つめて、ホーエンハイムは豪快に笑った。
「ほんとに・・・・。父さんも兄さんも毎日毎日、よく飽きないよね・・・」
その父をみながら、薬の原料のチェックをしていた手を止めてアルフォンスが呆れたように声をかける。
もはや父と兄の言い争いは毎日のことで、止めるだけ無駄と分かっているから、アルフォンスも口を挟むようなことはしない。
「ふむ・・・・。エドワードも薬の調合の腕はいいんだかなぁ・・・」
あの短気なのがなぁ・・・とため息をつく父に、半分以上は父さんが怒らせているんだよ・・・と心の中で突っ込みつつ、アルフォンスは敢えてそれを口には出さなかった。
父が兄の腕を高く評価していることも、兄が口ではなんだかんだと反発しながらも父の腕を認めていることは分かっていたから。
「父さんが普通に教えればいいのに、いっつも兄さんをからかうから、兄さんが怒るんだよ」
「ふむ。最近あいつもどんどん腕をあげてきたからなぁ・・・。俺も隠居が近いかと思うと悔しくてなぁ・・・。つい、からかいたくなるんだよ」
はははと笑う父に、アルフォンスはよく言うよ・・・と大きなため息をつく。
エドワードの薬の調合の腕は日に日に上がってはいるが、それでもまだ父には遠く及ばないということは、エドワード自身が一番分かっている事実だ。
途方もない知識と、誰よりも優れた調合の腕を持つ父には、エドワードもまだ敵わないと知っているから、余計に悔しくて反発してしまうのだろう。
(ま。僕としては、父さんと兄さんのケンカにはもう慣れたからいいけど。ってそれも問題だよね・・・)
せめて、母が生きていてくれたら。
父と兄の間ももう少し円滑になるような気がするのだが。
残念ながら、母はアルフォンスが小さいときに流行り病で他界してしまった。
(さて、今日は兄さんいつ帰ってくるかな・・・・?)
暗くなる前に帰ってくるといいんだけどと呟きながら、ひょいと窓から顔を出して道を見てみても、アルフォンスに小さな兄の姿を捕らえることは出来なかった。





「くっそー。あのくそオヤジ。何かにつけて人の事をチビだなんだと言いやがって・・・・・・」
相変わら論点がずれてしまった怒りを抱えながら、エドワードはずんずんと道を歩いていた。
その形相に、人々は触らぬ神になんとやらと言わんばかりに、道をあけていく。
しかし、そんな不機嫌なエドワードをものともせず。
のん気にエドワードの肩を叩く人物がいる。
「よッ!大将!!今日も凄まじい形相だねぇ〜」
能天気ともいえる明るい声でエドワードの肩を叩くのは、ハボックという青年だった。
視線だけで人も殺しかねない殺気を放つエドワードに、平気で話しかけられるのは、ハボックがエドワードと幼い頃からの付き合いがあるおかげだ。
こう見えて、二人は多少年の差はあれど仲の良い親友同士なのだ。
「んだよ・・・ハボックか・・・・」
チラリとハボックを見ただけで、またつまらなそうに歩き出してしまうエドワードに、ハボックはもう慣れっこなのか怒るわけでもなく、エドワードの歩調に合わせてついていく。
「また親父さんと、ケンカか?」
「うっせーな!ほっとけよ!!」
エドワードの素直な反応にハボックは図星か、と笑いを零す。
「毎日毎日、よく飽きないね〜あんたら親子も」
「うるっさい!あいつが悪いんだ!!あいつが!!ったく、いっつもいっも人の調合に文句つけやがって〜〜〜〜」
今日のケンカの原因でも思い出したのか、またふつふつと怒りを込みあがらせるエドワードに、ハボックはさりげなく話題を変える。
「じゃあ。嫌な事はパーッと忘れられる楽しいところにお兄さんと行くか?」
「あ?」
何を言い出すんだと訝しげに見上げるエドワードに、ハボックはニカッっと笑って見せる。
「嫌なことは、楽しいことでパーッと忘れるのが一番だぜ?」
「・・・・・・・どこだよ・・・楽しいとこって」
なんとなくハボックの笑い方から想像はついたが、取り敢えずエドワードは問いかけてみる。
「そんなの決まってるじゃないか。遊郭だよ」
「悪い。俺パス」
ハボックの回答が終わるか終わらないかのうちに、エドワードは即答で断る。
「そんなぁ〜、冷たいこというなよ、大将〜〜〜〜」
「悪いけど、俺はそんなお金で身体をどうこうって所は好きじゃないんだ」
別に身体でお金を稼ぐ人たちのことを、悪く言うつもりはないのだけど。
だけど、まだまだ若いエドワードとしては恋愛感情もなしに身体を繋ぐということに理解が及ばないのだ。
「ふーーーん。やっぱり大将はなんだかんだ言ってもまじめだねぇ・・・」
感心したように頷くハボックに、エドワードは小さく首を振る。
「そんなんじゃねぇよ」
「でもよ、エド。後学の為にも、一度ぐらいは遊郭に足を運んでもいいと思うぞ?」
「何の後学だよ!何のッ!!」
至極真面目な顔で言うハボックに、エドワードは呆れるしかない。
どう誘っても頷いてくれないエドワードに、ハボックはこれではダメだと思ったか。
パンッ!とエドワードの前で両手を合わせると、素直に頭を下げた。
「つーか。俺は今日どうしても、遊郭に行きたいんだ!!頼む付き合ってくれ!!」
「な・・・・なんだよ。一体何の真似だ?」
いつにない態度のハボックに、エドワードは引き気味に尋ねる。
「今日は、新しいコ達が店にでるらしいんだけど、その中でも凄い別嬪が出るって、今、遊郭中の話題になってんだよ」
「なんだよ、ただの野次馬か・・・」
やはりあまり興味のないらしいエドワードに、ぐわっと縋りつきながらハボックが切々と語る。
「そうは言うけどなぁ!エド!!今日はいつもと訳が違うんだぞ!!なんでもその人は元は良いとこの出らしくて、まとう気品が違うってもの凄い評判になってんだよ!!」
「良いとこの出がなんで遊郭で身を売る羽目になってんだよ・・・」
あからさまにあやしいじゃねーかとエドワードが胡乱げにハボックを見る。
「う゛・・・。いや、それは、まぁ、家の事情とか色々あるんじゃねぇのか?」
エドワードの言われて見ればその通りな疑問に、ハボックは言葉に詰まる。
「あんまり噂は鵜呑みにしないほうがいいんじゃねぇのか?って・・・うわッ!?ハボック何すんだよ!!」
「分かった。大将がどうしてもっていうなら、後は強行手段で行きます」
どうにも納得してくれないエドワードに焦れたのか、ハボックはそのがたいを生かしてエドワードを軽々と担ぎ上げてしまった。
「ちょ!!降ろせ!!人攫い!!」
「ははは。なんとでも言うッス!!連れて行ってしまえばこっちのもの!!」
じたばたと暴れたところで、筋肉はしっかりとついていても小柄なエドワードが暴れたぐらいでは、ハボックの身体は揺らがない。
「もう!大将のせいで余分な時間食っちまった。早くしないと間に合わないぞ!」
「・・・・・・・分かった。分かったハボック。取り敢えずついていくから、降ろしてくれ」
いつもと違って引き下がらないハボックの熱意に負け、エドワードは諦めたようにため息をつく。
「そうこなくっちゃ!」
嬉しそうに笑いながら、ハボックは再びエドワードの身体をひょいと降ろす。
自由の身になったエドワードは、このまま逃げてしまうことも出来たけど。
だけど、ハボックがそこまで熱心になる人物に、ほんの少しだけ興味が湧いて。
まぁ、見るだけなら・・・と、エドワードは誰にするでもなく、言い訳をして。
ハボックの後について歩き出した。





エドワードたちが遊郭の大通りにつく頃には、噂の廓の見世には既に人だかりが出来ていた。
「おお、やっぱり噂に引かれてやってきた奴は多いと見た」
自分もその一人だというのに、ハボックは得意そうに胸を張っている。
「・・・・・ほんとに。物好きが多いことで・・・・・」
それを傍らでみながら、エドワードは呆れたように言う。
やっぱり興味本位でついてくるべきではなかったと、既に後悔しはじめていた。
周りを見渡せば、しなを作りながら客引きをする遊女達の姿が見える。
そのどこかかげりのある表情が、何故かエドワードを後ろめたい気分にする。
「どれどれ、噂の人は・・・・っと」
そんなエドワードの複雑な心境もしらず、ハボックはその長身を行かして人垣から見世の中を覗き込もうとしていた。
「・・・・・・・うわ・・・・・・・・」
ようやくお目当ての人物が見つかったであろうに、そう一声上げたまま黙ってしまったハボックを訝しげにエドワードが見つめる。
「ハボック?」
呼んでも親友は、何も反応を返さない。
よほど何か凄いものでも見たのだろうか?
ハボックの見たものが気になって、エドワードも人垣を掻き分け見世の中を覗き込む。
見世に座る人物を捕らえて。
瞬間。
エドワードの時が止まった。
その人物は赤い着物を着せられて、見世へと座らされていた。
これだけの人間の見世物にされているにもかかわらず、その視線は怯むわけではなく、ただ黒い漆黒の光を静かに湛えていた。
毒々しいまでの赤は、その人物の肌の白さを余計に引き立てていて。
その人が動くたびに、癖のない黒髪がさらさらと流れて、見るものの視線を釘付けにする。
形のいい眉、黒曜石の瞳、通った鼻筋、薄い唇。
まるですべてが計算しつくされた芸術品のように。
整い過ぎた美貌が、そこにはあった。

トクン・・・と音を立てて、エドワードの胸がなる。

じっと自分を見つめる強い視線に気がついたのだろう。
不意に視線を動かしたその人物と視線が合って、エドワードの周りから音が消える。
まるで闇そのものの瞳に吸い込まれそうな錯覚に捕らわれながら、ただエドワードはその人物を見つめ続けていた。
「エド?」
様子のおかしなエドワードに気がついたのか、ハボックがどうしたのだと小さくエドワードの肩を揺すってもエドワードは反応を返さない。
「さぁ!お集まりの皆様!!本日の目玉商品は、とくとご覧いただきましたでしょうか!?」
そんな二人を置き去りに、廓では商品のせりが始まってしまう。
「この商品は本日出したばかりの初物にございます!こんな上玉は二度とめぐってこないかも知れない、一級品中の一級品。
我こそはと思われる方は、どうぞお手をお挙げください!!」
調子のいいこの廓の主らしい男の声に、黒だかりの中から、次々と手が上がる。
「ふは〜。さすが、これだけになると、お金も桁が違うっすね〜」
自分にはとても手が出せないや、と乾いた笑いを見せるハボックに構わず。
それまで一言も発しなかったエドワードが、不意に手を上げる。
「こいつは、俺が買う」
ただ一言。
強い口調で発したエドが提示した金額は、その場にいる全員を黙らせるのに十分な額だった。
「た・・・・大将?」
一体どうしちゃったんですか?と心配そうに覗き込むハボックに、
エドワードは、ただ悠然と笑ってみせた。





って、全然話が終らないまま終る。
全然遊郭関係ないじゃーん!!と一人突っ込んでも虚しいなぁ・・・。
ま・・・まぁ、何も考えずに書き出したら、こんなもんです。
私の能力では・・・(−−;
取り敢えず、遊郭と言いつつ、ロイお初はエドしかありえないということで、無理矢理の設定にしてみましたー。
やっぱり、他の男に抱かれまくってるロイって嫌だったんだもん!(だもんじゃねぇ)
他の皆様が書いているのは読むのは平気なのですが、自分ではかけない・・・。
しかし、この話放っておいたら次は間違いなく18禁表示ですね。
遊郭云々はもの凄く捏造しまくってるので、色々ありえないことになってますけど。
つか遊郭で競りのような事はやらねーだろう・・・と一人突っ込み。
歴史に詳しいかたがいらっしゃっても、どうか突っ込まないでください。
間違いまくってるのは、嫌というほど分かってますから。
専門用語もよく分からなくて、どこかで聞きかじったのを、もの凄く適当に使ってるので
使い方間違ってるところも多々あるに違いない。
でもでも、そこはほら、ファンタジー(?)ですからッ!
気にしない、気にしない!!
こんなサイトですが、今後ともよろしくお願いします。