「なぁ。いい加減諦めて俺と盟約結ぼうぜ?」
両手を頭の後ろに組んだまま歩いていたエドワードは、スタスタと前を歩く男に話しかける。
しかし前を歩く男は、まるでエドワードの言葉など聞こえないと言うように、完全無視で歩き続けている。
「なーロイってば〜。」
「うるさいッ!!いつまで私の後をついてくる気だ!?」
我慢の限界に達したのか、ロイと呼ばれた青年がクルリと振り返ってエドワードを怒鳴りつける。
「お、やっとこっち向いてくれた。」
怯むどころか、嬉しそうにニカッと笑うエドワードに、ロイはガクリと肩を落として脱力する。
「何度も言うようだが、私は君と盟約を結ぶ気はない。・・・全く、せっかく眠りについていたのを起すだけでなく、盟約を断っているにもかかわらず付きまとうなんて、君の常識は一体どうなっているんだね!?」
「いや、俺も別に付きまとうつもりなんてなかったんだけど・・・。」
ポリポリと鼻の頭をかきながら、エドワードは照れくさそうに笑う。
「しょーがねえじゃん。一目惚れしちゃったんだから。」
「なッ!?」
あっさりと呟かれた言葉に、ロイは言葉を失う。
「300年の眠りにつく伝説の「焔」がまさかこんなに美人だなんて、俺も思っていなかったんだよ。」
いや〜正に好奇心は身を滅ぼすってヤツ?と、エドワードは明るく笑う。
ロイは呆れて二の句が告げなくなる。
全く「好奇心」などで、あの封印を破られてはたまったものではない。
あの封印はかなり強力に施してあったのに、それを・・・彼は、エドワードはあっさりと打ち破ってくれたのだ。
エドワードが見かけどおりの少年ではないことは薄々感じていたが、ロイにとっては盟約を結ぶ相手にはなりえない。
300年前のあの日「彼」を失ってから、自分は二度と人間と盟約を結ばないと決めたのだ。
本当は、自分だって彼の生命がこの世から完全に消えたとき、後を追いかけるつもりでいたのに。
死にゆく彼が、『自分の後を追いかけてきたら、絶対に許さない』と言ったから。
だから、自分は死ぬことも許されず、かといって彼を失った痛みを抱えたまま生きる強さも自分にはなくて。
自分で封印を施して、眠りにつくなどという中途半端な存在になってしまったのだ。
「それにあんただって、力をなくしたままじゃ困るだろ?」
エドワードの言うことはもっともではある。
この世界では人間が精霊と盟約を結び、初めて強力な術が使えるようになるのと同様に、精霊もまた人間と盟約を結んで始めて己の本来の力を発揮できるようになる。
300年前に盟約を結んだ人間をなくしたロイは、現在は全く自分の力が発揮できない状態なのだ。
つまり、もう一度眠りに尽きたくても、今のロイには封印を施すだけの力も残されていないということになる。
「術も発動できず、特に格闘が得意そうにも見えないあんたが一人で歩いていたら、モンスターの恰好のえさになるだけだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・確かに君の言うとおりかも知れないが・・・。私はもう誰とも盟約を結ぶ気はないんだ。君はまだ15になったばかりなのだろう?私のような精霊にいつまでも関わってないで、早く自分に見合った精霊を見つけなさい。君なら、私などと盟約を結ばなくても偉大な術者にきっとなれ・・・・。」
「いやだ。俺はあんたがいいんだ。ロイ。」
ロイの言葉を遮って、エドワードはキッパリと告げる。
ずっと幼い頃から、何度も寝物語に聞かされた伝説。
嘆きの谷には「焔」の精霊が長き眠りについていると。
まさか、その伝説が本当だったとは夢にも思わなかったけれど。
だけど自分はあの強力な封印をとき、ロイを見つけた。
初めて見た瞬間に心奪われた。この目の前に立つ美しき精霊に。
なぜ頑なに盟約を拒むのか、理由はエドワードには分からないけれど、彼の秘める力が伝説になる程強力だからとか、そういうことではなくて。
ただ彼と一緒に居たくて、エドワードは先ほどから逃げる彼を追い続けているのだ。
「・・・・・・なんと言われても、私はもう君でなくても盟約を結ぶ気はない。」
たとえ力が使えないままモンスターに襲われて、そのまま命を失ったとしても、今のロイには未練など何も無かった。
キッパリと告げられて、一瞬エドワードの表情が辛そうに歪む。
「・・・・・・・分かった。」
その表情に心が痛まなかったわけではないが、漸く諦めてくれたらしいエドワードにロイはホッと胸をなでおろす。
しかし、続いてエドワードの口から飛び出たのは、全く予想もしない言葉だった。
「あんたが人間と盟約を結ぶ気がないのは、よおっく分かった。なら、盟約を結ぶ気になるまでつきまとうまでだ!」
にやりと極悪な笑顔で告げられた言葉に、ロイはあっけに取られてしまう。
「もう、俺はあんた以外の精霊と絶対に盟約は交わさない。」
「な・・・何を言っているんだ君は!盟約を結ばなければ君はいつまでたっても半人前のままだぞ!?」
そうこの世界では、術師は精霊と盟約を結んで始めて一人前と認められるのだ。
いくら高い素質を持っていようが、盟約を結ばない限りは話にならないのだ。
「そう。だからなるべく早く、あんたの気が変わることを祈ってる。」
慌てたロイとは対照的に。
返された応えはとてもシンプルで、ロイは完全にあきれ果てる。
物好きもここまで行けば、酔狂をとおりこしてある意味立派だ。
「・・・・・分かった。好きにするといい。」
どうせ、すぐに飽きるだろうと、ロイはため息と共に了承の意を表す。
歳若い彼が、いつまでも半人前の身分に甘んじているとは思えない。
すぐにあきて自分の元を離れる日はそう遠くはないだろうと、ロイは簡単に考えていた。
それぐらいの間なら、彼に付き合ってみるのも悪くない。
「よっしゃ。ぜってー、モノにしてやるから覚悟しておけよ!!」
「・・・・なんとなく、君が言うと別の意味に聞こえる気がするんだが・・・・。」
「まぁまぁ、細かい事は気にすんなって。」
今のは盟約を結ぶという話とは、別次元の話に聞こえた気がする。
含み笑いにロイは、いまいち府に落ちない。
「・・・・・まぁいい。それでは行き先は君に任せよう。何しろ300年の間にここも色々様変わりしたようだからな・・・。」
「とりあえず目的地は西だ。そこには俺の弟がいるんだ。」
こうして盟約を交わさない、人間と精霊の奇妙な旅は始まったのだ。
って、なんだコレ。いまいち世界観の分からん話でゴメンナサイ。
しかも、大佐人間外・・・(笑)
まぁ、パラレルなんで細かいことは気にしない方向で(笑)
とりあえずちょっとした設定を。
この世界は15で成人。術師になるためには精霊と盟約を交わさなければならないという掟があるのです。
精霊は人間と全く変わらなく見えますが、体のどこかに印が刻まれているのが人間との大きな違いです。
因みに大佐の場合は左肩に印があります。
精霊と盟約を結ぶのは、本人たちが合意しあえば簡単に出来ます。
精霊も普通に一杯いるので盟約は難しいことでは有りませんが、お互い力の強いものと盟約を結べれば
それだけ強い力を得ることができるのです。
あー名前すら出ませんでしたが、大佐の前の盟約の主はヒューズさんです(笑)
密かにヒュー×ロイ←エドの設定なのですよ。この話わ・・・(^^;