くっそ〜〜〜いつか、いつか大佐のあのスカした面に
一発ぶちかましてやる。
そう心に誓いながら、オレは足に怒りを込めて東方司令部の廊下を歩いていた。
どすどすと荒々しい足音を立てるオレの姿を、見咎める奴は幸いな事に
今はいないらしい。
全く、ちょっと情報を流してくれって言っただけなのに、仕事を一つ
こなしてこいだとぉ!?
どう考えたって、得するのは大佐の方だろッ!!
「くそっ!錬金術師の基本は、等価交換じゃなかったのか!?」
ダンッ!!
思い切り拳をたたきつけた壁が、けたたましい音を立てる。
思ったよりも派手な音が出たせいで、そこで漸くオレは我に返る。
いかん。怒りに我を忘れて、また軍部を破壊するところだった。
穴の開いた壁ぐらい、錬金術で直してしまえばどおって事もないが、
それがまた何かの間違いで大佐の耳に入った日にゃ、どんな嫌味を
言われることか。
ほんとに、顔を見れば人の事をチビだの豆だの言いたい放題
いいやがってぇ〜〜〜〜。
・・・・・・それでも。
色々と世話になっているのは確かだし、影から色々手を回して
もらっているのは確かだから。
結局オレは大佐には頭が上がらない。
(別に弱みを握られているからじゃないぞ。)
「はぁ〜〜〜あ。仕事を一つこなして情報を得るのと、自分で
文献で調べるのはどっちが早いのかねぇ〜。」
諦めと共に大きなため息をついていると、ふと大佐に聞き忘れた
件があった事を思い出す。
今さっき捨て台詞を残して、執務室を飛び出してきた身としては、
これから戻って聞くというのはどうにも気がひける。
が、しかし。
この件については、アルに絶対確認してきて欲しいと頼まれている。
う〜〜〜む。
このまま図書館に行って調べ物をして、ある程度ほとぼりが冷めた頃に
もう一度執務室に行くのと、今戻って確認するのでは、どちらがいいだろうか。
しばらく腕を組んで考えてから、結論を出す。
「しゃ〜〜〜ない。もう一度戻るか。」
できれはオレとしては、後ほど来たいのだけれど。
調べ物に夢中になれば、この件について忘れてしまう可能性が、
ないわけでもない。
やっぱり思い出したうちに聞いておく方が、得策だろう。
「どっちにしろ、戻りにくいことに違いはない訳だし。」
ぶつぶつ言いながらオレは、もと来た道を引き返すのだった。
コンコン。
遠慮がちに執務室の扉をノックするも、中から返事がない。
オレがここを飛び出してから、そう時間は経っていないはずだが・・・。
何か予定が入って、席を外しているのだろうか?
「大佐?」
名を呼びながら、そっとドアを開けて覗き込めば、大佐は先ほどと
変わることなく、執務室の机に座っていた。
「なんだよ。いるなら返事ぐらいしろよ・・・。」
文句を言いつつ、オレはドアの内側に身を滑り込ませる。
言葉を掛けても大佐は、相変わらず微動だにしない。
「?」
さすがに不審に思って、大佐の側まで行ったオレは
何の気なしに、大佐の顔を覗き込む。
覗き込んで、思わずオレは脱力する。
見つめる先の大佐は頬杖をついたまま、気持ち良さそうに寝っていた。
まったく、こっちは躍起になって「賢者の石」についての
情報を集めているって言うのに・・・・。
仕事中に気持ち良さそうに眠るなよなぁ。
全く大佐ともあろうもんが、こんな無防備でいいんだろうか?
・・・・・・・・・・・無防備・・・・。
その言葉で、キラーンとオレの中の悪戯心に火がつく。
こんな絶好のチャンスめったにないし。
せっかくだし顔に落書きでもしてやろうか?
ワクワクしながら、珍しいものでも見るように、オレは大佐の寝顔を見つめる。
思ったよりも長い睫毛。
白い肌。
通った鼻梁。
綺麗な線を描く顎。
・・・・・・黙っていたら、美人なんだよな。
普段余りに言い争いが耐えないから、あまり大佐の顔なんてじっと
見たことはなかった。
だけどよくよく見れば、いやよくよく見なくても、大佐は整った顔立ちをしていた。
しかし、なんとなく顔色が悪いように見えるのは、多分気のせいなんかじゃない。
疲れが溜まっているのかな・・・・。
いつも嬉々として、オレとの言い争いをしているように見えるから、
あまり気にしてなかったけど。
大佐なんて地位についてる以上、仕事が忙しくないわけがない。
感情を心の中に押し込めてしまうのは、大人の得意とするところだ。
そんな些細な事でさえ、オレは大佐との距離を感じてシクリと胸が痛む。
・・・・・・・って、なんでオレが寂しがらなきゃいけないんだッ!
突然降って湧いたような感情に、思わずブンブンとオレは大きく首を振る。
これじゃあまるで・・・・・。
何故か赤くなった頬を片手で押さえながら、もう一度オレは大佐の寝顔に
視線を落とす。
そうだ、そもそも大佐がこんな無防備な寝顔を、さらしているのが悪い。
不意に目に飛び込んできた、唇に更に心拍数が上がるのを、どこか不思議な
気持ちで受け止める。
普段は嫌味しか言わない口だけど。
触れたら柔らかいのだろうか・・・・・・。
まるで引き寄せられるように、ゆっくりとオレは大佐の顔へと
自分の顔を近づけていく。
気がついた時には、大佐の唇に自分の唇を重ねていた。
触れる唇の感触は、温かくて・・・・・。
そして甘い。
「・・・・・ん。」
かすかな大佐の身じろぎが聞こえて、慌ててオレは大佐から離れる。
オレは一体何をしてるんだッッッ!!!???
自分の取ったとんでもない行動に、混乱する頭をどうにか静めようと
オレは深呼吸を繰り返す。
そんな事をしているうちに、いよいよ目を覚ましたらしい大佐が
ゆっくりと目を開ける。
「ふぁ・・・。なんだ鋼の。きていたのか。・・・・・・・・・何してるんだ?」
欠伸と共に伸びをして、俺の存在に気がついたらしい大佐が声をかけてくる。
そりゃそうだ。起きていきなり壁に張り付いて、深呼吸を繰り返してる俺の姿を
見れば、誰だって不思議に思うだろう。
「あ。いや。なんっっっっっでもないッ!!大佐こそ、執務室でのん気に
居眠りしてていいのかよ。」
勢いよく首をふりながら、当たり障りのないことを言って、
壁に張り付いたまま、オレは後退りする。
もう、アルの用件の確認どころではない。
まともに大佐と目が合わせられねぇ!!
「じゃ・・・じゃあ、オレはこれで。」
一体何がじゃあこれでなのか。
脈絡のない俺の言葉に、いよいよ大佐が不思議そうな表情を浮かべる。
「待ちたまえ鋼の。何か用事があったから来たのではないのか?」
「いや。もう用件はすんだから!」
じゃ、と片手を上げて、ますます首をかしげる大佐を置き去りにして、
オレは執務室を飛び出す。
逃げるように、ばたばたと駆けて行く足音に交じって、うるさいほど
心臓が高鳴っているのが聞こえる。
もちろんそれは、駆けているためなんかじゃない。
先ほど触れた大佐の唇の感触をまた思い出して、頬が熱くなる。
オレは一体どうしたというのだろう?
まさか、まさか、まさかッ!!!????
オレって大佐に恋してる!?
自分から導き出した結論に、思わず青ざめる。
ちょっとまて、自分。
大佐はずっと年上で、同姓で、絶対に恋愛の対象になる人物じゃないだろう。
だけど、実はとてつもなく綺麗で・・・・・・。
「はは、これ以上前途多難なもの抱えてどうするんだろオレ・・・。」
漸く足を止めて、がっくりと肩を落とすオレの呟きが、静けさを取り戻した
廊下にひっそりと落ちる。
唇のぬくもりを思い出して赤くなってるようでは、嫌でも
自分の感情を認めるしかないだろう。
取り敢えず次に大佐に会ったときに、どんな顔をすればいいのか
分からなくて途方に暮れながら、オレは本日何度目になるか分からない
盛大なため息をつくのだった。
END
以上、初の鋼錬小説でした。
世間様のエドロイが一体どういうものなのか見当がつきませんが、
大きく外した自信はあります(−−;
うう、余りにエドロイが少なかった為、自分で自給自足をしてみたのてすが・・・。
恥をさらしただけで終ってしまった。
ただいまエドロイについて、矯正してくださる方募集中です(笑)
しかし、メインで書いてる王レベのキャラではできない言葉使いが
できたのは楽しかったですv
次は張り切って焔side行くぞぉ〜〜〜!
よろしければ、次回もお付き合いいただければ幸いです。