「ああ〜〜〜分かったよ!!もう大佐には頼まねぇよッ!!」
いよいよ怒りが頂点に達したらしい彼が、イライラとした様子で
腰掛けていたソファーから立ち上がる。
「そうか。せっかくいい条件だと思ったのに・・・。残念だな。鋼の。」
きっとそう言えば、彼がもっとむきになるのは分かっているのに。
つい楽しくて、余分な事を言ってしまう。
「ちょっと情報をもらうのに、一仕事してこいだなんて、一体どこが
いい条件なんだよッ!!」
案の定、出て行こうとしていた彼は、ピタリと足を止め、私に向き直り
むきになって私にかみついてくる。
くるくると表情を変える金の瞳が、今は怒りを含ませたまま射抜くように
私を見ていた。
感情を抑える事の苦手な彼をからかうのは、実のところかなり楽しい。
「何を言う、情報を得るためにはそれだけの代価をはらう。当然の事だろう。」
「だから、それがちっとも対等じゃないっ!!ていってるんだよ!。」
「そもそも、私と君の立場自体が対等じゃないのだから、ある程度の
差が出てしまうのは仕方あるまい。」
「ぐぐぐ・・・・。」
サラリと言うと、彼は悔しそうに唇を噛む。
だけどこれぐらいの事で、彼がへこたれないのは百も承知だ。
「分かった!そっちがその気なら、自分で調べるまでだッ!」
威勢のいい捨て台詞を残し、彼は執務室を飛び出していく。
バンッ!!と一瞬送れて、けたたましい音を立てて扉が閉まり、
どすどすと荒々しい足音は、あっという間に遠ざかっていく。
あまりに分かりやすくて、クスクスと自然に笑いが零れる。
腹の探りあいが当然の軍の生活の中で、素直な彼との会話は
一種の清涼剤みたいなものだ。
嵐が過ぎ去り、漸く静けさが戻った執務室で、ひとしきり笑って
背もたれに身体を預けた私は、なんとなくそのまま視線を窓へと向けた。
窓の外には、澄み渡った空がどこまでも続いている。
ああ、今日もこんなにいい天気だったのかと、ぼんやりと思う。
温かい日差しを窓越しとはいえ全身に浴びていると、押し込めたはずの
睡魔が襲ってくる。
ここのところ激務が続いていて、まともな睡眠を随分取っていない。
ベットで寝たのは、何日前のことだろう。
少しぐらいなら・・・、と心の中で、誰にでもなく言い訳して。
私は抗いがたい睡魔に、身を任せるのだった。
不意に、唇に温かい感触を感じて、私はうっすらと目を開く。
目に飛び込んできたのは、確かにさっき出て行ったはずの、彼の顔。
ということは、私の唇に触れているのは・・・・。
ッ!!!!!!!??
そこで漸く、私は自分の唇に触れているのが、彼の唇だと理解する。
驚きで、一瞬頭の機能がすべて停止する。
何故?なにがどうして、私は彼にキスされているんだ?
混乱を来す頭を必死に働かしても、答えなど出るわけもなく。
「・・・・・ん。」
ただ触れているだけとはいえ、長い口付けに息苦しさを感じて、
思わず声が漏れてしまう。
しまった。と思いつつ反射的に目を閉じると、気配で彼が自分から
慌てて離れたのが分かる。
離れてしまったぬくもりが、一瞬とは言え寂しいと思ってしまったのは、
気の迷いだと信じたい。
声を出してしまった以上、何時までも寝ている振りをするわけにもいかず、
私はゆっくりと目を開く。
「ふぁ・・・。なんだ鋼の。きていたのか。・・・・・・・・・何しているんだ?」
声が上ずらないように、細心の注意を払いながら、私は壁に張り付いてる
彼に声をかける。
何故か早鐘を打つ心臓がうるさい。
ええい、初恋をしたばかりの少女じゃあるまいし!!
何で私が男にキスされて、ドキドキしなければならんのだ。
「あ、いや。なんっっっっっでもないッ!!大佐こそ、執務室でのん気に
居眠りしてていいのかよ。」
首がもげるのではないか、というほどの勢いで首をふりながら、彼は
じりじりと後退りする。
一度も目を合わせようとしないその仕草から、先ほどの彼の行動が、
決して彼の意識した物ではないと想像できた。
「じゃ・・・じゃあ、俺はこれで。」
いったい何がじゃあなのか。
彼は脈絡のない言葉を告げて、そそくさと部屋を出て行こうとする。
「待ちたまえ鋼の。何か用事があったから来たのではないのか?」
先ほどの口付けが彼の意識しないものならば、彼は何らかの用事が
あって戻ってきたはずだ。
ああも威勢良く飛び出して言った手前、何か用事でもない限り彼は
戻ってきたりはしないはずだ。
そう思ったから、椅子から立ち上がって私は彼を呼び止めた。
それなのに。
「いや、もう用件はすんだから。」
と、彼は引きつった笑顔で答えるのだ。
じゃ、とわざとらしく手をあげて、彼は怪訝な顔をする私を置き去りにして、
ばたばたと走り去ってしまう。
本当に一体なんなんだ・・・・。
結局彼の本当の用件は分からずじまいだ。
し・・・・しかも、人が寝ている間にキスしていくとは・・・・・。
先ほどの柔らかい唇の感触を思い出して、かぁぁぁぁッと
頬が熱くなる。
私は一体どうしたんだ?
私が好きなのは女性であって、何であんな豆にキスされたぐらいで
こんなに動揺しなければならんのだ?
そんな、そんな、そんなッ!!!????
私が彼に惹かれるなど・・・・ッ!?
自分で導き出した結論に、思わず青ざめずにはいられない。
少し落ちつけ、自分。
彼は自分よりずっと年下で、同姓で、絶対に恋愛の対象になる人物ではないぞ。
だけど、至近距離で見つめた彼の表情は、自分が思っていたより
ずっと大人びていて・・・・。
「いや。私が今すべきことは、一刻も早く上まで上り詰めること。これ以上頭痛の
種を増やしてどうするんだ・・・・。」
机に両手を突きながら、がっくりと肩を落とす私の呟きが、静けさを取り戻した
執務室にひっそりと落ちる。
その時。
コンコンとノックの音がして、ホークアイ中尉が執務室へと入ってきた。
「失礼します。大佐、先ほどの書類に関してなんですが・・・・・。」
書類から目を上げた中尉は、私の顔を見て言葉を途切れさせる。
「どうかしたか?私の顔に何か?」
まさか、まだ頬が赤いなんて事はないと思うが、内心の動揺を隠して、
努めて冷静に問いかける。
「いえ。なんだか・・・・。」
じっと、私を見つめて中尉はいったん言葉を切る。
「とても、嬉しそうに見えましたので。」
思ってもいない中尉の一言に、衝撃を受けずにはいられない。
「・・・・あの、どうかなさいましたか?」
完全に固まってしまった私を見て、中尉が心配そうに覗き込んでくる。
「あ・・・いや・・・なんでもないんだ・・・・・。」
眉間を右手で抑えて、疲れたように再び椅子に腰を落とした私は、
盛大なため息を付く。
人にわかるほど表情に出るなんて・・・。
これは、嫌でも自分の感情を認めろということなのか。
取り敢えず次に彼に会ったとき、私はどのような顔をすればよいのだろう。
答えが見つからなくて途方に暮れながら、再び大きなため息を落とす私を、
中尉が不思議そうに見つめていた。
END
焔sideでした。というか、誰ですか。この乙女は(汗)
う〜〜〜ん。う〜〜〜ん。私が書くとどうしても受けは乙女に
なってしまう。書いてる本人は乙女とは対極にいるのにね。
人は、自分にないものを求めるもの・・・・なんでしょうか?
またしても、浮きまくり決定ッ!!
そして、一番の根本的問題は!
大佐って睡眠不足になるほど仕事熱心なんですか?(笑)
いや、でもあの若さで大佐まで上り詰めている人だし〜、ちゃらちゃら
したイメージはありますが、することはビシッ!と決めているんじゃないかなぁ〜と。
夢見すぎですか?
しかし、大佐の一人称難しかった・・・。
正確には大佐は、エドのことなんて呼んでらっしゃるのでしょうか。
鋼錬ハマリたての初心者につき、「鋼の」か「君」と呼んでる姿しか
知らんのです。
すみません。
拙い小説ですが、ここまで読んでくださってありがとうございました。