「鋼の・・・・・・?」
ロイ・マスタングがその少年の姿を見かけたのは、もう日付も変わろうかという遅い時間のことだった。
闇の中でもなお鮮やかな色彩を放つ少年は、ロイの声に気が付いて俯いていた顔を上げた。
「よぉ・・・大佐。随分遅いお戻りで・・・・」
壁に預けていた身をおこしながら、エドワードはおもむろに手をあげた。
「どうして・・・君がここに?」
確か数週間前に提出された報告書によれば、エドワードがここに戻ってくるのは随分と先だったはず。
素直に疑問をぶつければ、エドワードは少しだけ困ったように笑いながら。
それでも今更本音を隠すつもりはないのか、素直に理由を告げた。
「あんたに会いたくなったから」
「鋼の?」
「・・・・・それだけじゃ、ダメか?」
本当は帰ってくる予定などなかった。
自分たちには果たさなきゃならない目的がある。
そのために、一人の人間に捕らわれている場合ではないのも、嫌というほど分かっていた。
だけど。旅先でふと目に入ってきた桜が。
淡いピンクの花びらを風に散らす、その姿を見ていたら。
不意――――に。
いつの日か見た、桜に抱かれるように眠るロイの姿を思い出してしまって。
何故か、急に会いたくなってしまったのだ。
その人の存在をこの瞳に捕らえ、その人の声を耳で聞いて、その人の存在をこの腕に抱きしめて感じたくて。
気が付いた時には、いても立ってもいられず、引きかえしてきてしまっていた。
「・・・・・・・いや」
じっと自分を見上げる眼差しに、どう返そうかと一瞬躊躇して。
だけど今日は珍しく素直に本音を口にした恋人に免じて、ロイはゆるりと首を振った。
子供のくにせ中々自分の前で本音を吐かないエドワードが、珍しく本音を口にしている。
ならば自分も敢えて取り繕う必要もないだろうと。
「だめではないよ・・・。私も、君に会えて嬉しいよ?」
素直に心情を吐露すれば、エドワードはぽかんとロイを見上げた後、ゆっくりと口元に笑みを広げていく。
「・・・珍しく素直じゃん?」
「君がこんなところで不意打ちするからだ」
こんなところにエドワードがいるなんて、予想もしてなくて。
だから突然の再会に驚いて、思考回路が正常に作動してないだと漏らせば、チラリとロイを見たエドワードが小さくため息を漏らす。
「可愛くねーの。そこで、俺のことばかり考えていたからとか、言えばいいのに」
「君に可愛いと思われる必要は、まったくないのでね」
ぴしゃりと返された、恋人の冷たい言葉にエドワードは肩をすくめる。
相変わらず年上の恋人は、自分に甘えるということをしてくれない。
つれない仕草も、ロイ・マスタングという人間を形成する一部だと思えば、それさえも愛しくみえてしまうのだから、恋とは本当に厄介なものだとエドワードは心の中で呟く。
そんなエドワードの複雑な心境に気づくことなく、ロイはそういえばとつぶやきエドワードを見つめる。
「戻ってきたなら、どうして司令部の方にこなかったんだ?」
「んー。本当はそっちに顔出そうかと思ったんだけどさ。アポ無しで行っても邪魔になるかと思って」
「君でも・・・人の都合を考えることがあったのか・・・」
心底驚いたように、まじまじと自分を見つめるロイに、エドワードは顔をしかめる。
「その言い方、普通に失礼だぞ」
拗ねたようなエドワードの物言いに、ロイはクスクスと穏やかに笑いだした。
「それは、失礼した。あまりに君がしおらしいことを言うものだから。でも・・・本当に遠慮はしなくていいんだぞ?何もこんなところで・・・帰ってくるかも分からない私を待たなくても・・・」
今日はたまたま家に戻ることにしたから良かったようなものの、時間が遅くなればロイは司令部に泊り込む事も少なくない。
それこそ会える確率の方が、低いかもしれないのに。
「いーんだよ。今回は俺の我儘なんだから。あんたに会えなかったら、そのまま戻ろうと思ってたんだ。でも、あんたに会えたら・・・」
「たら?」
言葉を切ってしまったエドワードにロイは先を促すが、にこりと笑ったエドワードはそれ以上は答えず、不意にロイの手を取った。
「な、大佐。まだ時間大丈夫か?」
「時間?何をする気だ?」
時刻は既に深夜を回っている。
こんな時間にいったい何をする気だとロイが訝しむ様子を見せても、エドワードは一向に意に介さず。
「桜を見にいかないか?」
「桜?」
「そう。あんたどーせ、また司令部にこもりっきりなんだろう?たまには季節の移り変わりでも感じて、息抜きしたほうが良いと思うぜ?」
エドワードの言葉に、ロイはここしばらくの生活を振り返ってみるが。
確かにエドワードの言う通り、ここしばらくは執務に追われ、季節の移ろいなど気にも留めていなかった自分に気が付く。
「・・・確かに、ここしばらく執務室にこもりっきりだったかも知れないが。だからといってこんな時間にわざわざ花を見に行こうとは思わないな」
「・・・・・・・・そっか」
そっけないロイの返事に、エドワードはしょんぼりと肩を落とす。
あきらかに気落ちしたエドワードを見つめて、ロイは我ながら意地が悪い、そう思いながら言葉を続けた。
「君以外に誘われたのならね」
クスリとイタズラっぽく笑って見せれば、先ほどまでしょげていたエドワードがぱっと顔を輝かせた。
「なんだよ・・・行く気があるなら、素直にうんっていえよ」
「君が最後までちゃんと聞かないのが悪いのだろう?」
「あーもう!悪いのはすべて俺のせいかよ」
そういいながらも、エドワードがロイを見つめる眼差しは優しい。
それはまるで、素直になれないロイの心情など、お見通しだと言うようで。
とくん、とロイの鼓動が小さく鳴る。
不意にエドワードが見せる大人びた表情は、ロイの心をかき乱す。
こんな子供に絆されてるようではだめだと、心の一部で警鐘は鳴り響いているのに。
エドワードに会うたびに、心奪われていくのを止められない。
自分は目指す高みへと、ただひたすら進まねばならぬのに。
この手で奪った多くの命の為にも、自分の感情を優先させることなど許されないはずなのに。
それでも時折、何もかもを捨てて、エドワードと共に行けたらと夢想する自分がいて。
時折訪れる胸の痛みに、手を焼く羽目になるのだ。
それでも。
出会ってしまったことに。お互いに手を伸ばしてしまったことに後悔はないのだけれど。
「よし。とにかく行くと決まったら、さっさといこーぜ。こんなところで突っ立ってても時間が勿体無い」
ロイの了承を得て上機嫌になったエドワードは、ロイへ向けて左手を差し出す。
「・・・・・・なんだね?これは?」
差し出された手をじっと見つめて、ロイは首を傾げるが。
「何って・・・手だせよ。引いていってやる」
「・・・私は手を引かれるほど年を取ったつもりはないが?」
「そういう意味じゃなくて!俺が手を繋ぎたいの!!ほら、つべこべ言わずに手を出す!!」
照れたように、それでも絶対ロイが手を伸ばしてくれると確信して、エドワードは真っ直ぐにロイへと手を伸ばす。
普段だったら絶対に手を繋ぐなんて行為は、拒否するロイなのだが。
誰も見ていない深夜という時間と、思いがけずエドワードに会えたという喜びが、少しだけロイを素直にしてくれたのか。
その確信した眼差しに導かれるように、ロイはそっとエドワードの手の平に自分の手を重ねた。
「よし。それじゃ行くぞ」
満足げに笑ったエドワードは、ロイの手を握るとさっさと目的地に向かって歩き出す。
「おい・・・鋼の」
突然歩き出したエドワードに引っ張られて、ロイは抗議の声を上げかけたが。
後ろを向いたエドワードの耳が、赤く染まっているのが見えてしまって。
どうやら照れているらしいと分かってしまったロイは、抗議を飲み込んだ。
たまにはこんな夜のデートもいいかと思いながら、ロイは黙ってエドワードの後を歩き出す。
絡められた指先から伝わる熱が、暖かく自分を包み込むのを感じながら。


◆          ◆          ◆


「ほお・・・。見事なものだな」
エドワードに手を引かれるまま、町から少し離れた川べりへとやってきたロイは、咲き誇る桜たちの姿に感嘆の声を上げた。
夜空を背景に、可憐な薄ピンクの花弁を咲かす桜は月明かりの下で、なおその存在を際立たせている。
太くどっしりとした桜の幹は、一体どれ程の悠久の時を見つめて来たのか。
空に向かい目一杯枝を伸ばし花が群れる姿は、今年も無事咲けた事を誇らしげに語っているようだ。
あでやかに、華やかに、桜の木々はただ、緩やかに吹く風にその身を任せ、静かにその場に立っていた。
「凄いだろ?俺もここの桜がこんなに綺麗に咲くなんて最近知ったんだけど・・・」
「・・・・・こんな綺麗な桜を独り占めできるなんて、中々贅沢な話だな」
ロイの言葉どおり、夜も更けたこんな時間では周りに人の姿はなく、しんと静まり返っている。
明るい月明かりだけが照らす夜空の下で、幻想的な光景に飲まれるように、しばし二人は無言で桜を見つめていた。
「綺麗・・・だな・・・・・」
はらりはらりと舞う花弁に手を伸ばし、ロイがポツリと呟く。
その呟きにつられるように顔を上げたエドワードは、視界に飛び込んできた光景に息を詰めた。
風に舞う小さな桜の花びらの中、ロイは花びらを受け止めるかのように両手を挙げ、佇んでいる。
ただそれだけのことなのに。
作り物のように整った顔が、不意に人ならざるものに見えて。
それはまるで、桜の精の作り出した儚い幻のような。
そのまま消えてしまってもおかしくないような錯覚に捕らわれて、エドワードはとっさに花びらを追うロイの手を掴んでいた。
「・・・・どうした?」
随分と必死の形相で自分に掴みかかってきたエドワードに、ロイは何事かとエドワードを見つめる。
いつもと変わらない反応を返すロイの姿にほっと胸をなでおろして、エドワードは自分でも何を馬鹿なことをと思う。
目の前に立つ男は、歴とした軍人であり、その上国家資格まで有する錬金術師だ。
およそ儚いなどとは、無縁の位置にいるはずなのに。
なのに時々不意に、この男が消えてしまいそうな錯覚に捕らわれる。
掴んだはずのこの手をすり抜けて、一人消えてしまいそうな、そんな不安がいつも付きまとう。
「鋼の?」
黙りこくってしまったエドワードに、ロイは意味も分からないまま、ただ不安げに自分を見つめる眼差しを戸惑ったように見つめた。
「そういえば、鋼の知っているかい?」
どうしたものかと、しばし思案したロイは、ぽんぽんとあやすようにエドワードの背を撫でつつ、言葉を紡ぐ。
「誰から聞いた話かもう忘れたけどね。落ちてくる桜の花びらを捕まえると、願い事が叶うらしいよ」
君も捕まえてみたらどうだい?もしかすると・・・願いが叶うかもしれないよと。冗談めかしてロイが笑う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「君の願いは・・・そうだね、聞くまでもないかな」
「大佐・・・・・」
「早く弟と共に元の身体を取り戻せるといいな」
そう言って優しく微笑む大人に、エドワードは不意に涙が溢れそうになった。
分かっている、この大人の言うとおり自分が一番に優先させなければいけないのは、弟の身体を取り戻すこと。
だからといって今更、ロイの手を放すことも出来なくて。
恋人といいながら、滅多に顔を合わすことも出来ない関係をエドワードは強いているというのに。
それでもロイは笑って許すのだ、弟のことを何よりも優先する自分を。
この大人が時折見せる感情はとても優しくて、エドワードを切なくさせる。
「ほら鋼の。何をそんな悲しげな顔をしているんだね?せっかくの美しい桜を見に来ているというのに・・・・・」
困った子だねと苦笑しながら、ロイは周りを見るようにエドワードを促す。
「ほら、こんなに綺麗な景色はそうそう拝めるものではないよ?」
「でも・・・・・俺にとっては・・・・・」
「・・・・・・・鋼の?」
「あんたの方が綺麗だ・・・」
青白い月明かりを受け佇む姿は、元々の整った造作とあいまって、まるで一枚の芸術画のようだ。
自然の明かりはより神秘的な雰囲気をかもし出し、近寄りがたいほどの神々しさをロイにもたらしてた。
「・・・・・・・はが・・・・んぅ・・・」
なんと返していいのか戸惑うロイを強引に引き寄せて、エドワードはその唇に己の唇を重ねる。
「・・・・・・・・・・・・ん・・・・・んん・・・・」
突然のことにロイが抵抗出来ないことをいいことに、エドワードはどんどん口付けを深めていく。
唇の淵を舌でなぞり、ゾクリと走る快感に、ロイの口が薄く開けば、すかさず舌を差し込み、ロイの舌を絡めとる。
長い長い、吐息さえ奪うような情熱的な口付けに、はじめはエドワードを押し返そうともがいていたロイの抵抗が、徐々に弱まっていく。
「ふぅ・・・・ん・・・・」
終らない口付けに、ロイの足から少しずつ力が抜けていく。
一体いつの間にこんなキスをと、ロイは蕩けていく頭の片隅で思う。
確かに最初にキスをエドワードに教えたのは、自分だったはずなのに。
気が付けば奪われているのは、いつも自分のほうだ。
ついに自分の足で立っていることも出来なくなった、ロイの身体が傾いでもなお、エドワードは口付けをやめない。
エドワードに口付けられたまま、バランスを崩したロイは背後の桜の木にもたれかかる。
そのままずるずると幹にそって、崩れ落ちていくロイの身体。
「ん・・・ふぁ・・・・・」
完全に地面に座り込む形となって、漸くエドワードはロイの唇を解放する。
「・・・・っ・・・は・・・・あ」
やっと自由になった呼吸に苦しげな呼吸を繰り返すロイを、エドワードは満足げに見つめる。
微かに染まった頬と、水分を多分に含んだ漆黒の瞳が無意識の艶をかもし出し。
しどけなく開かれた唇は、長い口付けに赤く色付き、どんな女よりも淫らにエドワードを誘う。
そこには、壮絶なまでの色香を放つロイの姿があった。
「やっぱり、あんたの方が、桜よりずっと綺麗だ・・・・」
熱に浮かされたようにつぶやき、エドワードはロイの首筋へと唇を落とす。
カリと、歯をたてられピクリとロイの肩が震える。
「・・・・・・・・ちょ・・・鋼の・・・まさか、ここでするつもりか?」
桜の幹に押し付けられたまま、ロイが少しだけ慌てたようにエドワードの肩を両手で押し返す。
「だって・・・・・・あんたが、あんまりにも綺麗だから・・・・欲情した」
あまりにストレートな台詞に呆れつつ、それでも場所を考えれば素直に同意することなどできるはずもなく。
首筋に感じるエドワードの吐息に、再びびくりと身体を震わせながらロイは身をよじる。
「何を馬鹿なことを言っているんだ・・・。君はここをどこだと・・・・」
「こんな時間にもう人なんて通らねーと思うけど?」
「そういう問題じゃない!!」
人が通る通らないできなく、外ですることに抵抗があるのだとロイは必死に訴えるが、エドワードのイタズラな手は止まらない。
「悪ぃ・・・でも、もう止まりそうにない」
「・・・・・はが・・・・ッ!」
いつの間に軍服の前をくつろげていたのか、シャツの隙間から侵入したエドワードの手が胸の突起に触れ、ロイの身体が跳ねた。
「でも・・・・どうしても・・・、どうしても嫌なら俺の手を振り解いて?」
ロイの身体に触れていた手を止め、真摯な眼差しでエドワードがロイを見つめる。
真っ直ぐに見つめられてロイは諦めたように、全身の力を抜く。
この瞳にロイはとことん弱い。
そんな熱を込めた目で見つめられて、自分が拒めるわけなどない。
「・・・・・・・・大佐?」
不意に大人しくなったロイを、エドワードが不思議そうに見つめる。
「・・・・・・・こんな我がままを聞くのは、今回限りだからな」
「大佐・・・ッ!」
つんとそっぽを向いたたままそう言ってやっても、エドワードはただ嬉しそうにロイに抱きついてくる。
それは一見子供が親に甘えているようにも見えるのに。
「・・・・・大丈夫。最高に気持ちよくしてやるから」
耳元で囁かれる言葉は、子供とは程遠い台詞だった。



「・・・・・・・・ん」
手のひらでロイの前髪を優しく梳きながら、再びエドワードの唇がロイへと重なる。
その優しい仕草にすべてをゆだねるように、ロイはエドワードの唇を受け止めた。
手のひら同様優しい口付けは、何度も角度を変えてはロイの唇へと重なり、少しずつロイの緊張をほぐしていく。
誘うように薄く唇を開けば、すかさずエドワードの舌が入ってきて、ロイの舌へと絡みつく。
「ふ・・・う・・・・」
決して強引ではないエトワードの愛撫に、ロイの口からは意識せず小さく声が漏れた。
静かな空間に響く、唾液を混ぜあう濡れた音が、少しず二人の快感を高めていく。
「・・・・・・・・・あっ・・・」
シャツの上から探り当てた胸の突起を潰せば、あわせた唇の間から甘い声が上がる。
その反応に気をよくしながら、エドワードは更に突起を摘みあげる。
「・・・・・んんっ!」
布の上からというもどかしい愛撫に、ロイの腰が揺れる。
まるでその先を強請るようなロイの姿に、口付けを解いたエドワードはゆっくりとロイのシャツのボタンを外していく。
少しずつ露わになっていく己の肌に、まだ完全に快楽に支配されたわけではないロイは、羞恥が勝るのか僅かに視線をそらす。
それでもエドワードの手を止めようとはせずに、されるがままになっている。
エドワードが完全にボタンを外してしまえば、そこに現れるのは男のものとは思えない真っ白な肌。
「ホント・・・いつ見ても白い肌・・・」
「何を馬鹿な事を・・・」
うっとりと目を細めるエドワードに、桜の幹に背を預けたままのロイは呆れたようにため息をつく。
「ホントだよ、白い肌にサクラの花びらが散って・・・、凄く綺麗だ・・・」
でも・・・と小さく呟いて、エドワードはロイの首筋に唇をつける。
「・・・・・んっ!」
とたん、チクリとした痛みが走って、ロイは身体をすくませた。
「大佐に似合うのは、もっと鮮やかな紅かな・・・・」
「・・・・・・・見えるところに痕はつけるなと・・・」
満足げに首筋に触れるエドワードに、そこに刻印を刻まれたことを知って、ロイが顔をしかめる。
エドワードが触れる箇所は、軍服の襟で隠れるかどうかのギリギリのライン。
「そんなところにつけられては、おちおち昼寝も出来ないではないか」
「そんなどうどうと、仕事サボること宣言されてもなー」
中尉に狙撃されるぞと笑いながら、文句はいいつやめさせる気はないらしいロイに、エドワードは更に所有の証を刻んでいく。
首から胸、胸からわき腹へと唇を滑らせ、ロイの白い肌に鮮やかな紅の華を咲かせていく。
時々耐えられないと言うように、エドワードの肩に置かれたロイの手が、エドワードの肩を掴んだ。
「・・・・・・・・ふぅ・・・・・・あ・・・・・ッ!」
最後に一際強くわき腹に吸い付くと、ロイが高い嬌声を上げる。
「そろそろ、こっちも触ったほうがいいかな」
そういいながら、エドワードの左手が触れるロイの下肢は、既にゆるく勃ち上がり始めていた。
どうせ聞いたところで、素直に返事など返すわけもないからと、自己完結してエドワードは素早くロイのズボンの前をくつろげる。
触れたロイ自身は、既に透明な液を零し始めていた。
ゆるゆるとさすってやれば、ロイの腰が揺らぎ、よりいっそう蜜を溢れさせる。
「あ・・・ん・・・・鋼の・・・・ッ!」
甘い声を上げる恋人の姿に、頭の芯まで溶かされそうだと思う。
「大佐・・・ちょっと、腰あげて」
乱れていくロイの姿に煽られながら、エドワードは存分にロイを愛するために、半ば強引に腰を上げさせると邪魔な下衣を取り払い、改めてロイ自身に触れる。
根元から先端をなぞるように指を動かせば、逃げるようにロイが腰を引く。
「ダメ。逃がさないよ」
微かな抵抗は無視して、エドワードはロイ自身に絡ませた指を上下に動かす。
「あ・・・う・・・・・やッ・・・鋼の・・・ッ!乱暴に・・・扱うな・・・」
「どこがだよ。この上なく丁寧に扱ってるでしょうが」
「君の・・・やり方は・・・はっ・・・・性急すぎる・・・」
あっけなさずる程簡単にエドワードの手に落ちて、高められていくのが気に入れないのか、ロイが乱れた呼吸の合間に文句を告げても、エドワードはお構い無しだ。
「こんな色っぽい姿見せ付けられて、暴走しないだけでも褒めてください」
エドワードとて多少なりとも、事を進めるのが性急すぎるという意識が、ないわけではないのだが。
ただ、ゆっくりと快感を高めてやるには、あまりにも自分の恋人は魅惑的過ぎて。
結果いつも、ロイに多少の無理をお願いすることになってしまうのだ。
「ア・・・・・・・ッ!やぁ・・・・・も・・・・」
一向に手を緩める気のないエドワードと、くちゅくちゅと淫猥な音をたて続ける下肢に、聴覚からも犯されて、追い詰められたロイは首を振りながら限界を告げる。
「いいよ。先に一回イッとけよ」
耳元に唇をよせ、エドワードが更に数回少し強めにロイを扱き立てれば。
「・・・・ァ・・・・・は・・・・・は・・・がね・・のぉ!」
エドワードの肩に添えていた手が、ぎゅっとエドワードを掴み、ロイはあっけなく達してしまった。
「・・・・あ・・・・・・は・・・・・」
吐精の開放感にぐったりとエドワードの肩口に顔を埋め、荒い呼吸を繰り返すロイに、エドワードは宥めるように背中をさすってやる。
「・・・・・・・気持ちよかった?」
「・・・・・・もう疲れた」
「・・・・・可愛くねぇこと言うなよ」
ぐったりとしたまま、可愛げのない事をいうロイに、エドワードは苦笑するしかない。
ここまで熱を高めて、今更最後までしないまま終らせることなんて、できやしないのに。
何度も抱き合った身体は、この先にある快楽を知り尽くしていて、高められた身体は貪欲に快楽を求めている。
「ま・・・・そんな可愛くないところもいいんだけど」
「何をいって・・・あ・・・・ッ」
するりと更に奥に伸びてきたエドワードの指に、文句を言いかけてたロイの言葉が途切れる。
「今度はこっちで・・・・な」
エドワードはロイの秘部を、先ほどロイの放ったもので濡れる左手の指で撫でる。
その刺激に、エドワードにしがみついたままのロイの身体が、怯えるように小さく揺れた。
「無茶なことはしないって」
安心させるように機械鎧の右手でロイの頭を撫でながら、エドワードは自分を受けて入れてくれる場所へと指を突き立てる。
「・・・・・んっ」
異物感に微かにロイは声を漏らしたが、そこはそれほど抵抗もなくエドワードの指を飲み込んだ。
エドワードに抱かれ慣れた体は、すぐにエドワードの指に馴染むように、柔らかくなっていく。
「あ・・・・・・・・あ、ん・・・・・やぁ・・・・」
少しずつ広げるように蠢く指に、ロイはむずがるように首を振る。
「ここ、こんなにしといて、今更いやなんていって通じると思う?」
エドワードの言うとおり、ロイの秘部はまるでその先を強請るように、エドワードの指を締め付けている。
それが自分でもわかってしまったのか、ロイの顔に鮮やかな朱が走る。
「・・・・・そんなに恥ずかしがらなくても・・・・」
「うるっさ・・・・ッ!は・・・恥ずかしいものは、は・・・・はずかしいのだから、仕方あるまい!!」
くっくっくと耳元で笑うエドワードに、ロイは恥ずかしさを誤魔化すように怒鳴る。
いつも優位に立っているのは自分のはずなのに、この時ばかりは完全に立場が逆転してしまうのが悔しくもある。
年上のプライドだとか、仮にも大佐という地位にあるものの意地だとか、そんなものは与えられる快楽の前には、まるで無力で。
聞き分けのない子供のように、怒鳴ることしか出来ないこの身にロイは泣きたくなる。
どれほどエドワードに溺れているのだと、思い知らされるのはこんなときだ。
「ふ〜ん。恥ずかしいとか感じているようなら、まだ余裕があるってことだよな・・・」
「・・・・・は・・・鋼の?」
怒鳴ったまま沈黙してしまったロイをどう思ったのか、なにやら不穏な事を言い出したエドワードに、ロイは抱きついていた体を離してエドワードを見つめる。
「・・・・・今、恥ずかしいとか感じてる暇もないくらい、よくしてやる」
ニヤリと極悪に笑ったエドワードに、ロイは思わず顔を引きつらせる。
もしかしなくてもこれは・・・余分な事を言ってしまったのだろうか。
「ちょ・・・は・・・はがね・・・あんッ!」
ロイに文句を言わせる間も与えず、エドワードはロイの秘部に差し込んでいた指を、一本から二本へと増やす。
急に倍になった質量に、ロイは逃げるように腰を上げるが、がっしりと鋼の腕で抱きしめられた身体はびくともしない。
「あ、う・・・・・・・・・・・ッあ・・・・・・やぁ!!」
内壁を探る指が不意に前立腺をこすり、否応なくロイの身体が跳ねる。
「・・・・相変わらず、ここ弱ぇーな・・・」
「あ・・・・は・・・・そんなこと言うなら、君も試して見ればいいだろう・・・・ッ!」
男であれば誰だってそこは弱くて当たり前だと涙目で抗議するロイに、エドワードは小さく首を振る。
「あいにく俺は抱かれる気ねーし。多分一生わかんないと思うよ」
「も・・・どうして、そう生意気なんだ君は」
「だって・・・俺、こうして大佐が俺に身を任せてくれるのに、すっごい幸せ感じてるし、今更譲れないよ」
真摯な眼差しで見つめられて、不意にロイ鼓動が跳ねた。
「あんたが好きだから抱きたいと思うんだし、あんただから欲しいんだ」
黄金の瞳は、これ以上もなく真剣な光を浮かべている。
それは、嘘偽りのないエドワードの本心からの言葉。
惜しみなく与えられる愛情に、ロイの心の底に暖かいものが満ちていく。
この気持ちを何と表現したら良いのだろう。
愛しくて、切なくて、涙が零れるほど幸せなこの感情を。
「・・・・・・・・・っ!は・・・がね・・・。も・・・」
心も身体もどろどろに溶かされて、限界を迎えたロイがエドワードへと縋りつく。
必死に縋りつく身体に手を回しながら、エドワードはゆっくりとロイの秘部へと埋めていた指を引き抜いた。
「・・・・んぁ」
ずるりと指の抜けていく感触に、ロイは背筋を震わせる。
「・・・・・ん。ごめん。俺ももう限界」
散々ロイの乱れる姿を見ていたエドワードの欲望は、十分過ぎる程の熱をもって、ロイの中へと向かえ入れられるのを待っている。
「・・・・大佐・・・少しだけ腰上げられる?」
「・・・・・・・ん」
エドワードの指示に微かな戸惑いを見せながら、ロイは力の入らない身体を叱咤してエドワードの指示に従う。
エドワードはロイの細い身体に手を伸ばすと、自分の上を跨らせるように引き寄せる。
「・・・・・・あ・・・・・」
いつもと違う体勢に戸惑うロイに微笑むと、エドワードはロイの手を取って自分の背に回させた。
途端ぎゅっと自分にしがみついてくる、年上の恋人の可愛い仕草に、自然と笑みが込上げる。
「ん・・・そう・・・そのまま、ゆっくり腰落として?」
「っ・・・・・」
すっかりほぐされたその場所に触れる熱に、ロイは不安げな声を上げる。
あてられる熱はとても熱くて、怖いぐらいにエドワードに求められていることが分かってしまうから。
「・・・ロイ?」
「・・・・ああっ!・・・・・く、う・・・・っん」
ためらっていたら不意打ちのように耳元で名前を囁かれて、膝がくだけた。
瞬間、重力に逆らわず崩れ落ちた身体が、あてられた熱を否応なしに飲み込んで、ロイの口から悲鳴が上がる。
「・・・・・・大丈夫ロイ、落ち着いて・・・ゆっくり息はいて・・・・」
慣れない体勢に力の上手く抜けないロイを宥めるように、背中を優しくさすりながら、エドワードはロイの力が抜けるのを辛抱強く待つ。
ひくひくと収縮を繰り返す内壁は、エドワードの理性を飛ばさせるのに十分な快楽を与えていてはいたけれど。
それでもロイを傷つけたくない一心で、エドワードはともすれば欲望に走りがちな己の心を必死に押し留めていた。
「・・・・・は・・・・はがね・・・・の・・・う・・・・・ん・・・・・」
はぁはぁと、荒い呼吸を繰り返すロイの意識を逸らそうと、エドワードは再びロイの唇を奪った。
「ん・・・ふっ・・・・・んん――――」
歯列を割って強引に舌を絡ませれば、ロイは苦しい呼吸の中必死についてこようとする。
しばし、お互い夢中で口付け合って。
「・・・・・・・・ぁあ・・・・あふ・・・・・」
飲みきれない唾液が溢れて顎を伝う頃、漸くロイの身体から力が少しずつ抜けてくる。
「・・・・・あ・・・・は・・・・鋼の・・・・」
「・・・・・もう、動いて平気?」
「・・・・・・ん」
問いかけにコクリと頷くロイを見て、エドワードはゆっくりと律動を開始する。
始めは労わるようにゆっくりと。
しかし、まるでエドワードをもっと奥まで引き込もうかとするように律動するロイの内壁に、エドワードの理性は脆くも崩れ去ってしまう。
「・・・・・・ぁあ、あっ・・・・ん・・・・・・やぁ・・・・!」
早くなる動きに翻弄され、ロイの口からはもはや押さえる事を忘れた、嬌声が零れ落ちていく。
快楽に支配されていく身体。
ただお互いに与える快楽に夢中になって、何も考えられなくなる。
ありえないほどロイを奥までを貫くエドワードと。
エドワードを放すまいと、エドワードを食い締めるロイ。
おそらく限界は、近い。
「ロイ・・・・・ロイ・・・・ッ!」
「やぁ・・・・ッ!!鋼・・・・エド・・・・・エドワードッ!」
互いの名を呼び続けて、抱いているのは、抱かれているのは、自分にとっての唯一なのだと何度も確認しあって、二人は一つになっていく。
「・・・・あ・・・・もっ・・・・だめ・・・エド・・・・ッ」
いつの間にか溢れた涙に、漆黒の瞳を潤ませながら、ロイがエドワードへ限界を告げる。
「ん・・・・俺もそろそろ・・・・」
同じく限界を迎えていたエドワードも、小さく頷いて同意を表す。
昇り詰める予感に、ぶるりと背筋が震えた。
「・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・ああッ!!」
「・・・・・・・・・・・・・クッ!」
お互い離さないとでも言うように、強く抱きしめあって、二人は限界まで高めあった熱を解放する。
「・・・・・あ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
「・・・・・・・大丈夫?ロイ?」
心配そうに覗き込むエドワードに、ロイはふわりととても幸せそうに微笑んで。
そのまま、ゆっくりと意識を手放した。


◆          ◆          ◆


はらり、はらりとまた風に揺られて花びらが散っていく。
美しくも儚いその光景は、まるで泡沫の夢。

幻想的な光景をエドワードは、黙って見つめていた。
その隣には、エドワードに身体を預けるようにして、穏やかな寝息を立てるロイの姿がある。
いくら周りの景色が幻想的であろうと、この傍らのぬくもりは確かに現実のもの。
先ほどまでの妖艶さが嘘のように、安らかに眠るロイをエドワードは幸せそうに見つめた。
ロイは多くのものを失った自分に、唯一与えられた光。
彼が照らすものは、決して自分だけじゃないと分かってはいるのだけど。
それでも、自分はこの光を失ったら、きっと生きていけない。
そう思えるほど、大きな存在になってしまったヒト。

はらり――――と。

ロイを見つめるエドワードの目の前に、桜の花びらが落ちてくる。
そっと手を開けば、花びらはまるで吸い寄せられるように、エドワードの手のひらへと落ちてくる。
ふと。
エドワードの脳裏に、先ほどのロイの言葉が蘇った。



――――落ちてくる桜の花びらを捕まえると、願い事が叶う――――



錬金術師は神なんて信じない。
目の前で起きる事だけを、現実として捕らえる生き物だから。
そんなものに願いをかけるなんて、馬鹿馬鹿しい妄想だと思う。
それでも。
こんな幻想的な世界の中にいると、少しだけ非現実的な事を信じてみても良いかと思った。
もしも、本当に願いが叶うのだとしたら。
一つだけ叶えて欲しい、願いがある。
手のひらに落ちた花びらをそっと包んで、小さく祈る。


どうか・・・この人と共に――――――――。


十年先も、二十年先も。
その先もずっとずっと、共にありますように。
願わくば二人に穏やかな死が訪れるその瞬間まで。






                                         END

『ガラスの城』 Music by Shinjyou's Music Room さま



よ・・・・・漸く終わった。
今回はいつになく、書きあがるまで時間がかかってしまったような気がします。
おかげで、桜は完全に散ってしまいました。
おおう。つくづく、季節ものは私の体質に合わないのだということを、実感してしまいましたよ。
でも、桜の話って書くのも読むのも、大好きです。
なんだか・・・・桜って見ていると心がざわつくのですよ。
あの美しくも儚い光景はある意味、魔性だと思います。
一度魅せられたら二度と戻れないような、現実との境目が非常に曖昧になるというか、なんといも口では表現しがたい美しさが、桜にはありますよね。

・・・・・・・しかし。
いくら桜が美しかろうと、私の表現力では、その美しさ妖しさは、一欠けらたりとも表現できないのであった(T−T)
えーん・・・本当に素晴らしい表現力をもつ方たちが羨ましいと思うのは、こういう時です。
管理人の場合、「書くのは好き」という勢いだけでここまで来てるからな・・・。
そんな管理人の駄文に、ここまで付き合ってくださった方、本当にありがとうございました。
今回も、えっち部分が毎度同じようなパターンですみません。
やっぱり、管理人に艶文は無理だ。
もー二度と艶文なんて書かない!!って、書き終わると大抵思うのですが、しばらくするとまた書きたくなるんですよね・・・・。
喉元過ぎれば・・・を地でいく管理人・・・・アホだ。
クールビューティーな大佐を目指したのに、結局最後は乙女になってしまったし。
人間背伸びしても、ダメなものはダメなのね・・・・。

そういえば、桜の花びらを掴むと・・・・って、本当にあるジンクスかどうかは、管理人はしりません。
管理人の住むところでは「桜の花びらを掴むと何かいいことがある」という、ジンクスは実在していますが・・・・。
(これ、ローカルなジンクスだったら、どないしよ・・・)
そのジンクスをふと思い出したので、ちっょと内容を変えて今回の小説に使ってみました。
でも、あの美しい花弁をつかめたら、なんとなく本当にいい事が・・・というか、願い事叶いそうな気がしませんか?