「うわ!?思ったよりも大きい部屋なんだな・・・」
ロイよりも一足先に、部屋に足を踏み入れたエドワードが一番に発したのがその言葉だった。
「ほお。思ったよりも広いな・・・。無理を言ったのはこちらなのに、良く対応してくれたものだ」
エドワードの後に続いて部屋に入ってきたロイも、ぐるりと部屋を見回し感心したように呟く。
「やっぱり一応は国軍の大佐サマだもんな。下手な部屋には通せなかったんじゃないの?」
「・・・一応とはなんだ一応とは」
二つ並んだベッドの一つに腰を下ろしながら、ロイがエドワードを睨む。
しかしその眼差しにいつもの鋭さは無く、ロイが本気で怒っているわけでは無いことがうかがえた。
「べっつにー、深い意味はないけどー」
予想通りのロイの反応にくすくすと笑いつつ、エドワードは改めて自分達が通されたホテルの部屋を見つめた。
エドワードとロイが通されたのは、スイートとまではいかないが十分に豪華といって差し支えの無い部屋だった。
調度品は華美ではないが、微かに上質さが漂っているあたり、高価なものが置かれているのだろう。
淡いベージュを基調とした壁紙は、室内に落ち着いた雰囲気をもたらし、旅人たちの疲れを癒すことに一役買っていそうだ。
壁に飾られた大きな絵画は、よりいっそうの落ち着いた雰囲気を部屋にもたらしていた。
エドワードとロイが居るのは、イーストシティより車で5時間ほど離れた山間にある町だった。
大きな湖が街の中心部にあるぐらいの、コレといって有名な観光名所もない街だ。
もちろん二人が連れ立ってこんな場所にいるのは、理由がある。
セントラルの司令部よりロイがこの街の視察を命じられた事が、そもそもの事の発端なのだが。
エドワードは視察を命じられたロイの護衛として、同行してきているのだ。
だからこそ、本日のエドワードの出で立ちはロイと同じ軍服に、髪の毛は後頭部で一くくりにまとめられているという見慣れないものだった。
何故軍関係者とはいえ、正式な軍人ではないエドワードがロイに同行する羽目になったかと言えば。
理由は至極簡単。
本来ロイに同行する予定だったホークアイが、彼女らしくも無く体調を崩し、急遽代役を立てることになったからだ。
そうは言っても、人手不足で有名な軍部である。
ホークアイの代役を立てようにも、ロイを護衛できるほどの腕が立つ人材をそう簡単に確保できるはずも無く。
たまたまイーストシティに定期報告に現れたエドワードが、渡りに船とばかりに捕獲されてしまったのだ。
確かに国家錬金術師の資格まで有するエドワードならば、ロイの護衛にとって不足は無い。
エドワードと一緒にいた弟のアルフォンスにまで、いつもの恩が少しでも返せるいい機会だからといわれてしまっては、エドワードはもう頷くことしか出来なかったのだ。
勿論エドワードとて、その話を聞かされた時から、断るつもりなど欠片も無かったのだけれど。
アルフォンスが同行に賛成してくれた時点で、エドワードの心はロイと同行する事に決まっていた。
他言無用の関係ではあるとはいえ、エドワードとロイは恋人同士なのだ。
せっかくの二人きりになれるチャンスを、エドワードが無駄にするはずがない。
一応は演技で渋ったようには見せたものの、最終的には同行に同意し現在に至っている。
「それにしても、急に部屋を変えてくれなんて言って悪かったかな?」
「・・・まぁ、この場合は仕方あるまい」
きょときょとと部屋を見回していたエドワードが、思い出したようにロイに問いかけると、ロイは小さく肩を竦めてエドワードに応じた。
元々ロイに同行するのがホークアイであったため、宿泊先にとあてがわれたホテルは、当初二部屋用意されていた。
護衛がエドワードに代わったことで、無理を承知で部屋を一部屋に変えてもらえないかと申し出たために、先ほどのような会話がなされていたのだ。
ロイとて無茶な事を言っている自覚がある以上、出来る範囲で構わないと付け加えたのだが、ホテル側は精一杯の対応をしてくれたようだ。
ロイ・マスタングという名の持つ威力が通じるのは、軍部の中だけではないらしい。
「でもさー」
「ん?」
「なんでこの部屋、こんなでっかい鏡が置いてあるわけ?」
ロイの座るベッドの真正面に備え付けられた、壁一面を占拠する巨大な鏡を見つめながらエドワードが首を傾げる。
エドワードも国家資格を有する錬金術師である以上、その年には見合わない大金を持ち合わせてはいる身ではあるが。
基本弟と宿を取るときには、豪華なホテルに泊まっている訳ではないので、このようなタイプの部屋に通されたのは初めての経験らしい。
「さぁ?こうして大きな鏡を置いておけば、部屋が広く見えるからかなんかじゃないのか?」
「目の錯覚を利用してって事?」
「・・・多分」
「ふーん」
おざなりな返事をしながら、エドワードはしげしげと鏡を覗き込んでいる。
何がそんなに珍しいのだかと呆れつつ、ロイはこれ以上エドワードの相手はしていられないとばかりに、窮屈な軍服を脱ぎだす。
そんなロイの様子を鏡越しに見ていたエドワードが、ニヤリと笑う。
不幸にも軍服を脱ぐことに夢中になっていたロイは、エドワードのその笑いに気が付くことができなかった。
その明らかに何かを企む笑みを見たのならば、ロイとて迂闊にエドワードの前で上着を脱ぐことも無かっただろうに。
「だけどさ〜」
「うん?」
いつの間に自分の近くに戻ってきていたのやら。
思っていたより近くで聞こえた声にロイが顔を上げれば、先ほどまで鏡の前に立っていたはずのエドワードが目の前に立っていた。
「ベッドの前にこんな大きな鏡置いておくなんて、なんかヤバくない?」
「え?」
そっと頬に触れる手に戸惑いながら、ロイがエドワードを見上げれば、エドワードは口角を微かに持ち上げ笑っていた。
そのいかにも何かを思いつきましたと言わんばかりの笑顔に、ロイの身体がぎくりと強張る。
「は・・・鋼の?」
恐る恐るロイがその名を呼ぶのと、エドワードがベッドに乗り上げるのは同時だった。
「ちょっ鋼の・・・ッ!」
後ろから突然抱きしめられて驚くロイに構わず、すっかりとベッドに乗り上げたエドワードは膝立ちの状態でロイを抱きしめる腕に力を込めた。
「いきなり何をするんだ!」
「やっぱりヤバイよなぁ・・・これ・・・」
「だからさっきから何を言っているッ!」
全くかみ合わない会話に苛立ちながらロイが首を捻り後ろを見ると、逆にエドワードに顎をつかまれ前を向かされてしまった。
「はが・・・ッ」
「ほら、見てみろよ。俺達のやってることが全部映ってる・・・」
「な・・・ッ!?」
耳元で囁かれぞくりと背中を震わせたロイの瞳に、鏡に映し出されたエドワードに背後から抱きしめられ頬を染める自分の姿が映る。
ベッドの前に備え付けられた巨大な鏡は、エドワードとロイの姿を余すことなく映し出していた。
「なぁ、自分がされてる姿って興味ねぇ?」
「あ・・・あるわけないだろう!私はそんな悪趣味じゃない!!」
首筋に噛みつかれ、震える声を必死に隠しながらロイはエドワードの腕から逃れようともがき続ける。
「えー。一度見てみた方がいいって。あんたがどんだけ色っぽく乱れるか教えてあげるよ?」
くすくすと笑うエドワードの拘束は強く、どんなに暴れてもその腕から逃れる事は叶わない。
「ほら、そんなに暴れるなって」
「あ・・・や・・・嫌だ・・・ッ!」
するりとワイシャツの隙間から入り込んだ指に胸の突起を弾かれ、びくりと身体を跳ねさせながらロイは最後の抵抗を試みる。
「なーんか、そうやって暴れられると無理矢理犯してる気分・・・」
なんか倒錯的だなぁ・・・と背後で呑気に呟くエドワードに、これのどこが合意の上でなんだとロイは心の中で叫ぶ。
敢えて声に出さないのは、先ほどからずっと身体に触れ続けているエドワードの手によって、もはや口を開けば甘い鳴き声しか出ないことが分かっているからだ。
何度も抱き合うことによって、エドワードにいいように作り変えられてしまった身体は、エドワードの与える快感に簡単に溶けていってしまう。
「でもさ。今日は俺頑張ったでしょ?ちょっとぐらいご褒美くれてもいいと思わない?」
中々大人しくならないロイに、このままでは埒があかないと悟ったのか、エドワードが今度はおねだり作戦へと変更してくる。
あのまま強引に事を進めようものならば、いい加減にしろと鉄槌の一つでも落としてやることが出来たのに、ぎりぎりのラインで作戦を変更したエドワードの無駄な勘の良さにロイはため息を落とす。
「俺、役に立ってただろう?」
「そ・・・それは確かにそうなんだが・・・」
嬉々とした表情で覗き込まれれば、それを否定することはロイには出来ない。
確かにエドワードの言うとおり、補佐として申し分のない働きをしたのは事実なのだ。
それはホークアイからある程度の仕事の引継ぎをしていた事を差し引いても、十分おつりが出るほどに。
正直ここまでエドワードがサポートしてくれるとは思っていなかっただけに、ロイは随分と驚いたのだ。
「どうせ仕事ももう終わってるんだしさー。後はどうやって過ごそうと俺達の勝手じゃないの?」
耳元で囁く声は、まるで人を悪事に誘う悪魔のよう。
だが元よりエドワードの押しに弱いロイには効果覿面で。
「・・・・・・・・・」
逡巡するロイにエドワードは畳み掛けるように、唇に甘い口付けを落とす。
びくりとまた身体を竦ませたロイを宥めるように、エドワードは優しく舌でロイの唇をなぞる。
口には出さないけれども、恋人がとてもキスが好きだということをエドワードは知っていた。
抵抗を封じるには、もっとも有効な手段だということも。
「・・・んっ」
案の定、抵抗することも忘れて甘く吐息を漏らすロイに微かに微笑んで、エドワードは口付けを深めていく。
後ろから覆いかぶさる状態でのキスは決して楽ではないけれども、その微妙な苦しさが互いの熱を煽っていく。
「ふぁ・・・ん・・・」
気の済むまでロイの唇を貪って、漸く唇が離れる頃には二人とも息が上がっていた。
「ほら、見てみろよ。キスだけでこの色っぽい顔」
とろんと快楽に溶け始めたロイを現実に引き戻すかのように、ロイの顎を掴んだエドワードが再びロイの視線を鏡へと向けさせる。
「・・・え?」
快楽に溶けた漆黒の瞳に僅かに理性の光が戻り、エドワードに言われるがままに鏡に映った自分の姿を見つめる。
漆黒の瞳に自分の姿が映った瞬間。
「・・・・・・ッ!!」
小さく息を呑んで、ロイは紅く染まった頬を更に紅く染め上げた。
鏡の中に映るのは、エドワードに抱きしめられたまま着衣を乱され、頬を染めた自分の姿。
くったりとエドワードに寄りかかる姿は、嫌がっているようには到底見えないどころか、誘っていると指摘されても反論の仕様が無い状態だった。
そのあられも無い姿に、ロイはどうしようもない程の羞恥心を覚える。
「しゅ・・・趣味が悪いぞはがね・・・の・・・っうん!」
文句を言いながら顔を背ければ、エドワードに首筋に噛み付かれてその甘い刺激にロイは鳴き声のような嬌声をあげる。
「なんで?こんなに綺麗なのに?」
さも不思議と言わんばかりに首を傾げながら、エドワードはロイの首筋を甘噛みする。
エドワードの腕の中でびくびくと身体を震わせるロイは、例えようも無く淫らで美しくエドワードの瞳に映る。
何度抱いても飽き足らないロイの身体。
抱けば抱くほどに欲しくなる、エドワードにとってロイの身体はまるで常習性の高い麻薬のよう。
抱き合うたびに加速していく気持ちには、際限が無い。
恋は盲目とは言うけれども、実際自分が体験するまでまるきり信じていなかったのに。
気が付けば溺れるほどにロイに夢中になっている自分がいて。
おそらくこれほど夢中になれる恋は、最初で最後だろうと。
漠然と思ってしまうほどに、エドワードのロイへ対する執着は強かった。
「ほら、こっちも見てみろよ?白い肌が少しずつ紅く染まっていくのがすっげぇ綺麗なんだぜ?」
「は・・・鋼ッ!」
エドワードの意図を察して慌てて逃げ出そうとする身体を抱きしめて、エドワードは片手で器用にロイのワイシャツのボタンを外していく。
どんどん露にされる肌にロイの焦りは増す一方だが、エドワードに触れられた場所からぐずぐずと溶け出して行く身体は、もはや己の制御を受け付けてくれはしなかった。
続く
こんな所で続くでホントすみません。
続きはなるべく早いうちに、頑張りたいと思ってます。
つか、後半はえっちしかないと思うケド。(といっても、管理人の腕では高が知れている)
新年初の更新がこんな事でいいのかーという突っ込みは無しの方向で。
拍手で応援いただけると、単純な管理人としてはアップが早まるかも?
(って、人に縋るなーって感じですけど)
ちょっぴり鬼畜モードなエドワードを目指しつつ、既に玉砕してるのが何とも。
うちのエドは、好きな子は苛めたいタイプですが、泣かれると弱いタイプでもあります。
だから鬼畜になり切れない。
で、大佐は大佐で、普段甘える事を知らない人ですが、恋人の前でだけは弱さをぽろっと見せてしまうので。
きっともう少し大佐が意地っ張りだったら、エドの鬼畜モードもアップしそうなのですが。
案外素直に表情を見せるので、ころっと絆されてエドは意地悪になり切れないという・・・。
・・・救いようのない馬鹿ップルです・・・うちの二人は(^▽^;)
因みに、エドがポニーテールなのは、管理人の趣味です。
エドは軍服なら、絶対にポニーテールにしていただきたい!!
将来的にエドが大佐の下につくというシチュエーションも萌えですが、
こう突発的に、軍服着るのもいいよねと思うワタクシ。
所詮いい男は、何着ても似合うんだよなぁ。(←もはや盲目)