「む?思った以上に大きいな・・・。」
洋服を買うまではエドワードの洋服を着てしのぐということになったロイは、さっそくエドワードから手渡された黒のインナーを着用したわけなのだが。
想像以上の布の余り具合に、ロイは憮然と呟いた。
「な、だから言っただろ。」
ロイを見下ろしながら、エドワードがクスリと笑う。
「あんた元々がっちりって体型からは程遠かったのに、鍛えてあの体型じゃ、鍛えてなかった子供の頃なんて、華奢に決まってるじゃん。」
「華奢とはなんだ、華奢とは!男に向かって言う言葉じゃないぞ!」
エドワードよりほんの少し年下に戻っただけなのに、こんなにも体つきに違いがあることに、どうにもロイは納得できないらしい。
瞳に怒りを浮かべて、エドワードを睨みつける。
しかし、それは意識せずエドワードを上目づかいで見上げる形になってしまい、エドワードをかえって喜ばせてしまう。
「うわ〜。大佐に上目づかいで見てもらえる日がこんなに早くやってくるとは・・・。」
いつかはロイの身長を抜いて、自分を見上げさせる。
それを夢の一つとしていたエドワードにとって、ロイの怒りなどどこ吹く風だ。
「聞いているのかね!?鋼のッ!!」
ジーーーーンと感動したままロイの話を聞いていないらしいエドワードに、ロイはエドワードの上着の袖を掴みながら、グイッと引っ張り意識を自分に向けさせる。
「だって・・・実際、こんなに軽いのに・・・っと!」
引っ張られて視線をロイに戻したエドワードは、そういいながら、軽々とロイを抱き上げてしまった。
「ば、馬鹿者!!何をするんだ、早く降ろさないか!」
いわゆる姫抱きの状態にロイは慌てて抗議をする。
「うわッ!?本当に軽いや。」
かえってくるのは、エドワードの驚いたような声ばかり。
「あんたちゃんと食ってるのかよ?いくらなんでも軽すぎるぞ!?」
「自分に必要な栄養ぐらいはちゃんと取っているぞ!!それはともかく、早く降ろさないか!」
「や〜だね!」
「あのな・・・。」
間髪をいれずに返されたエドワードの心底楽しそうな声に、ロイは抱きかかえられたまま頭を抱える。
「うん。いつもの大佐でも抱き上げられないわけじゃないけどさ、やっぱりこう軽々って訳に行かないもんね。」
「・・・・・・鋼の。いつまでも遊んでいると、出かける時間がなくなると思うが?」
このまま放っておけば、いつまでも抱き上げていられそうな予感に、ロイは当初の目的をエドワードに思い出させることにする。
「おー・・・そういえばそうだった。でもさ、大佐も案外この体勢いいとか思ってない?」
文句を言いつつも、しっかりと自分の首に回されているロイの両手にチラリとエドワードは視線を送る。
「だッ!誰がいいと思うか!!これは鋼のがあんまり私を振り回すから、落ちないように仕方なくだ!!」
「ふ〜〜〜ん。だったら、そういうことにしておいてもいいけど。・・・・・・・・顔を真っ赤にしたまま言っても、余り説得力ないかもよ?」
「ッ!!」
実は恥ずかしいから早く降ろしてもらいたかったロイとしては、ズバリ指摘されて頬が更に赤くなるのを止められない。
普段の自分であれば、一切感情を顔にだすことなどないのに。
どうにも、子供の身体と言うのは制御がきかなくて困る。
「も〜〜〜そんなに照れるところも、か〜わい〜って、いでででで。」
ロイを抱きかかえたまま、すりすりと頬を寄せるエドワードの頬を、ロイは容赦なく両手で引っ張ってやった。
「いいから、取り敢えず降ろさないか!」
「ちぇ〜せっかくいい感じなのに。」
つねられて頬を赤くしたエドワードが、残念そうにロイを床へと降ろす。
漸くエドワードの腕から解放されたロイは、手早くエドワードの洋服を纏ってしまう。
袖やズボンの裾、多少生地が余ってしまっているのは否めないが、取り敢えず外に行くことぐらいは出来るだろう。
「ふむ。やはり生地が余ってしまうか。まぁ、あくまでも、これは私の身長が鋼のより小さくなったからであって、体格の問題ではないがな。」
あくまでも筋肉の違いを認めたくないらしいロイに、エドワードはロイに分からぬよう小さく笑う。
「とにかく、早いとこ洋服を手に入れてデートに出かけようぜ!」
自分の洋服を着たロイもたまらなく可愛いが、きちんと体格に合った洋服を着せたらもっと可愛くなることだろう。
さて、ロイにはどんな洋服が似合うだろう?そう考えながらエドワードはロイへと手を差し出す。
「仕方ない・・・。今日は鋼の・・・君に一日付き合うことにするよ。」
口では仕方ないと言いながら、幼い顔には笑顔を浮かべてロイはエドワードから差し出された手を、素直に取るのだった。
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