Rot und Blau 1



「だから、どうして私がこんなスパイみたいな真似をしなければならないのだ!!」
端正な美貌に思いっきり不機嫌を貼り付けて、ロイは同僚のヒューズを睨んだ。
「スパイみたいなんて、人聞きの悪い事言うなよ。正真正銘のスパイ行動だ」
「なお悪いわッ!」
意味も無く偉そうに胸を張って言い放つヒューズに、容赦の無い鉄拳をおみまいして、ロイは大きくため息をついた。
「大体、私に子供の相手なんて出来るわけが無いだろう」
先ほどから、ロイとヒューズが着かず離れず尾行している少年の背を見て、ロイは困ったように呟く。
「大丈夫だ。お前は、黙ってれば美人だからな。きっと、子供も好いてくれるさ」
ロイに殴られた頭をさすりながら、さりげなく暴言を吐くヒューズをまたロイはじとっと睨む。
「だから!どうしてお前の計画は、そうやって大雑把なんだ!!行き当たりばったりで、いつも上手くいくと思ったら、大間違いだぞ!!」
「だから、その行き当たりばったりの計画を成功させるのが、お前の役目だろ?ロイ?あいつが「ロート」の一員なのは間違いないんだ。あいつから上手くヘッドを聞き出せれば、一気に潰す事だって可能なんだ。ブラッドレイの役に立ちたいって言ったのはお前だろう?」
先ほどまでのへらへらとした態度を消し、不意に真剣な眼差しになったヒューズの言葉にロイはぐっと詰まる。
確かに。ヒューズの言うとおり、ブラッドレイの役に立ちたいと言ったのはロイだ。
ブラッドレイの役に立つというのならば、多少の危険も覚悟はしていた。
だけど、まさか自分がスパイをしなければならないとは、思ってもいなかったのだ。
「まぁ・・・・。どうしても、お前の気が乗らないというなら、俺は無理強いはしないぜ」
躊躇するロイに、ヒューズは責めるわけでもなく、あっさりと計画の中止を申し出る。
「子供を騙すなんて、正直いい方法とは言えないからなぁ・・・」
「・・・・・・・・・・・・いや。確かにお前の言うとおり、この方法が一番効率がいいのは確かだ。挑戦する価値はある」
しばし沈黙して何かを考えていたロイは、小さく首を振ると、自らスパイの役を買って出た。
「・・・・・・・・いいのか?」
後悔しないな?と視線で問いかけるヒューズに、ロイは小さく頷いた。



この街には、大小さまざまな組織がある。
その中でももっとも大きな勢力を誇るのが、ブラッドレイを筆頭に置く「ブラオ」で、ロイとヒューズもまたそのブラオに所属するものだった。
しかし、組織が大きくなればなるほど、それを潰そうとする反対組織といのは増えていくわけで。
ロイ達が尾行していた少年もまた、ブラオに対する反勢力組織の一員だと、ここしばらくのヒューズの調べで分かっていた。
既に大規模な組織となっているブラオは、それほど躍起になって反勢力潰しをしているわけではない。
所詮小さな組織の抵抗では、最大勢力のブラオを潰すなど到底無理な話だからだ。
しかし、ここ最近急に力をつけ始めた組織がある。
今のところ表立ってブラオに仕掛けてくる素振りは無いが、このまま順調に勢力を伸ばしていけば、いずれブラオに抵抗できる組織にまで成長する可能性も無いとは言い切れない。。
だから、危険な芽は今のうちに摘み取ってしまいたいというのが、ブラオのヘッド、ブラッドレイの考え方だった。
その力をつけ始めた組織というのが、ロートという組織なのだが。
この組織の問題は、ヘッドが誰か不明と言うところだ。
短期間にこれほど組織を広げた人物だ、さぞかし頭の切れる人物であることは間違いないのだが、どれほどブラオのものたちが探りをいれても、ようとしてその行方は分からない。
ならばその組織の一員に聞き出すしか方法は無いだろうと考えたヒューズが打ち出したのが、今回のロートに属する少年に近づき聞きだすという、スパイ行動だったのだ。




BACK