Rot und Blau 17
「な・・・・なんで君がここに・・・・・」
自分のしていることが判っているのかと、ロイはエドワードに問いかける。
「だから『俺のモン』取りに来た」
しれっと答えるエドワードに、ロイは頭を抱える。
「君との話は、あの時終ったはずだ!!」
確かにあのときエドワードは「さよなら」と言ったのだ。
なのになんで今更こんな行動を取るのか、全く理解できない。
しかし困惑するロイをよそに、ちっちっちとエドワードは軽快に一指し指を振る。
「確かに、あの場はさよならって言ったけど。永遠にさよならなんていってないだろ?」
「そんな・・・・・ッ!」
エドワードの勝手な理屈に、ロイは言葉を失う。
背後から楽しそうな笑い声が聞こえてきたのは、その時だ。
「はっはっは。随分と派手な登場をしてくれたものだね。エドワード」
その言葉に弾かれたように、ロイは背後のブラッドレイを振り返る。
自分の聞き間違いかと耳を疑うが、ブラッドレイは確かに呼んだのだ。
いきなり殴りこんできた少年を「エドワード」と。
なぜ彼の名を?とか、彼を知っているのですか?とか聞きたい言葉はたくさんあったはずなのに。
ロイが言葉を紡ぐより早く、続いたブラッドレイの言葉に、ロイの思考は今度こそ完全に停止した。
「ロートのヘッドがわざわざ何の用だね?」
「なッ!!なんですってッ!?」
「それほど驚くこともあるまい?お前たちが独自にロートのヘッドを調べていたというのに、私が手をまわしていなかったとでも?」
さも当然と返された返答に、ロイはグッと言葉に詰まる。
言われて見れば、確かに自分たちでさえロートのヘッドが誰だか掴めれば、一気にロートを潰せるかも知れないと考えたのだ、すべてにおいて相手の二歩も三歩も先を行くブラッドレイが、その手を考えないわけがない。
先ほどの問答においても、ロイの回答にブラッドレイ深く追求しなかったのは、既にブラッドレイはロートのヘッドがだれなのか掌握していたからなのだ。
完全にブラッドレイの掌で踊っていた格好となってしまったロイは、状況がまったく飲み込めない。
「し、しかし、ロートのヘッドは・・・・・」
自分がエドワードから聞いていたヘッドの名は、エドワードではなかったと言いかけロイは口ごもる。
もはや、何をどう整理すれば良いのか分らない。
「・・・・・・エドワード、君はロイに何を言ったんだね?」
あきらかに混乱しているロイの姿に、ブラッドレイは呆れたようにエドワードを見つめた。
「え・・・いや、ロートのヘッドは、ヴァン・ホーエンハイムって・・・・」
「・・・・・・・・・・・なるほど・・・・な」
ぽりぽりと頬をかきながら、素直に白状したエドワードにブラッドレイは納得したとばかりに頷いた。
「一体どういうことなんだ、エドワード!!」
エドワードとブラッドレイの間では成立しいるらしい会話に、蚊帳の外に追い出されたロイが焦れたようにエドワードに詰め寄り、その襟首を掴むとガクガクと揺さぶった。
「ちょ・・・・ロイ、落ち着けって・・・・」
振り回されながら、エドワードは両手をロイにあて制止をかける。
「これが落ち着いてなどいられるか!!君は、私を騙したのかッ!?」
ずっとブラッドレイに告げるべきかどうか悩んできたといういうのに、自分の聞かされた名はまったくの嘘だったなんて。
悔しいのか悲しいのかすら分からないまま、ロイは最初は自分がエドワードを騙していたことも忘れて、感情のままに叫んでいた。
「まぁ、すこし落ち着きなさい、ロイ」
背後からかかった制止の声に、感情を高ぶらせていたロイがハッと我に返る。
「エドワードは、君を騙してなどいないよ」
振り返ったロイに言い聞かせるように、ブラッドレイはゆっくりと告げる。
「・・・・・・・どういうことです?」
「・・・まぁ、取り敢えずその手を離してやりなさい」
ブラッドレイの言葉にロイが腕の中を見てみれば、ぐったりと伸びているエドワードの姿がある。
黙ってロイがエドワードを解放してやれば、エドワードは数歩よろけて立ち止まった。
「くぅ〜〜〜〜今のシェイクは効いたぜ・・・・・」
されるがままになっていたエドワードも、さすがにアレだけ振り回されれば堪えるものがあるのか、クラクラする視界を振り払うかのように頭を振る。
「ヴァン・ホーエンハイムはね、彼の・・・エドワードの父親の名だ」
「父親の名?」
「そ、今はどこにいるか知らねーけど」
おうむ返しに問いかけるロイの背後で、エドワードが補足する。
「俺の親父とブラッドレイは古くからの知り合いなんだ。だから、行方知れずのホーエンハイムの名を出せば、ブラッドレイにだけはロートのヘッドが誰なのか正確に伝わるってわけ。今ではホーエンハイムの名を知ってるヤツなんて限られてるからな」
「ロートのヘッドという立場上、誰に聞かれるとも分からないからエドワードは、その名に真実を隠したというわけだ。一応、ヴァン・ホーエンハイムと名乗っておけば、他の誰かに聞かれたとしても、エドワードがロートを守るため嘘の情報を流したと映るだろうからね」」
「ま、結局俺が自ら名乗るまでもなく、とっくにあんたにはばれちゃってたみたいだけど」
肩をすくめるエドワードに、ブラッドレイは小さく笑う。
「当たり前だ。俄仕立ての君の組織と私の情報網を一緒にしないでもらおう」
「ただ、ロイがその名を報告しないなんて、思わなくてさ。余分に悩ませちゃってごめんな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ロイは返す言葉もなく、ただブラッドレイとエドワードを交互に見つめていた。
「それで、エドワード。君は先ほど『俺のモン』を取りに来たと言ったね?この組織の中で、君の物など私は預かった覚えはないのだが?」
今までのにこやかになされた会話など無かったかのように、真顔になったブラッドレイに、ロイは小さく息を呑む。
あふれ出すブラッドレイの殺気に、まるで部屋の温度が下がったかのような寒気を感じる。
鋭い視線はそれだけで相手を射殺せるのではないかという強さで持って、エドワードを見つめる。
しかし、その視線も殺気も真っ向から受け止めて、エドワードは言い放った。
「あんただって、もう分かっているだろう?俺はロイを貰いにきたんだ」
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