「いや・・・まさかホントに縮むとは・・・・・・。」
取り敢えずと移動したリビングで、エドワードは自ら淹れたコーヒーを飲みながら、まじまじと向かいに座るロイを見つめていた。
ぶかぶかのパジャマを羽織ったまま、ロイは真剣な眼差しでエドワードの淹れたコーヒーを冷ましている。
いつも使っているカップさえ手に余るのか、両手でカップ抱え、コーヒーを冷ます姿はまるきり子供と一緒で、なんとも微笑ましい気分にさせてくれる。
可愛いなぁ・・・・。
一体今日何度目になるか分からない言葉を、心の中で呟くエドワードの見ている先で、漸く満足がいくまでコーヒーが冷めたらしいロイが、コクリとコーヒーを飲む。
しかし、一口飲んだロイは途端難しい顔になる。
「どうした?やっぱり俺の淹れたコーヒーじゃ大佐の口に合わなかった?」
エドワードがロイの家に居るときは、意外にも家事はロイがこなしていたりする。
初めてエドワードがロイの家を訪れたとき、ロイ自ら作った料理の豪華さにエドワードが純粋に驚いたのは、そう昔の話ではない。
コーヒーもまた然りで。いつもコーヒーを淹れるのは、ロイの役目なのだ。
エドワードとて、旅を続ける身の上なので自炊はある程度こなすことは出来るが、どうも根本的な性格の問題なのか、料理も大味なものが多い。
自らおいしいコーヒーを淹れる、ロイの口には合わないかもしれないとエドワードが心配そうにロイを見つめる。
しかし、ロイの口から漏れたのは意外な一言。
「・・・・・・・・苦い・・・・。」
ポツリと呟かれた言葉に、エドワードは一瞬動きを止める。
「プッ・・・・。」
笑っては悪いとは思うのだが、あまりに不本意そうに呟くその顔が幼くて、堪えきれずに小さく噴出してしまう。
「わ・・・・・笑うなッ!!元はといえば誰のせいで、こんなことになっていると、思っているんだッ!!」
クックックッと、肩を震わせてわらうエドワードに、ロイは顔を真っ赤にして食って掛かる。
いつも冷静な表情を崩さないはずの人の、くるくると変わる表情に驚きつつ、エドワードはこれ以上相手の機嫌を損ねるのは得策ではないと判断して、何とか笑いを収める努力をする。
「悪ィ、悪ィ。そうだよな。別に、大佐のせいじゃなくて、身体が縮んで、味覚も子供になっちまったんだよな。」
「ホントに君は何て悪戯をしてくれるんだ・・・。」
コーヒーを飲むことは諦めたのか、コーヒーカップを横にずらしながら、ロイは小さなため息を落とす。
「いや、まさか本当に効くとは思わなくて・・・。ゴメンナサイ。」
予想外に素直に頭を下げるエドワードに、ロイはそれ以上何もいえなくなってしまう。
元々年下の恋人には甘すぎるほど、ロイは甘いのだ。たとえロイ本人に、甘やかしている自覚がなかったとしても。
「それでこの薬は、結局何なのだね?」
こんないかがわしい薬を飲まされたというのに、既にエドワードの悪戯を許し始めてしまっているロイが、至極当然な質問をする。
「うん。その薬はこの前言った西の町で、俺たちにちょっかいかけてきたおっさんがいてさ。逆に返り討ちにしてやったら、コレをやるから許してくれって差し出してきたものなんだよね〜。」
「返り討ちって・・・・。君たちは一体どういう旅をしているんだね・・・。」
呆れたようにロイは呟く。
本当にこの年下の恋人は、自ら危険に足を突っ込むような事ばかりしていて、困る。
言葉には中々出来ないけれど、いつも身を案じているこっちの身にもなって欲しいというものだ。
「でも、そのおっさんの話では、縮んだ身長は一日で戻るらしいから、明日には元に戻ると思うんだけど・・・。でも、どっちにしろ今日は仕事にいけないよな・・・」
と、エドワードは申し訳なさそうにロイを見る。
しかし、ロイはエドワードの言葉にぐっと詰まると、不意に下を向いてしまった。
「大佐?」
「・・・・・・は・・・・・だ。」
突然どうしたのかと、エドワードが見つめる先でボソボソとロイが呟く。
「え?」
小さく言われたロイの言葉が聞き取れなくて、エドワードは思わず聞き返す。
「・・・・・・・今日は、元々休みを取ってあったから、出勤の必要はない・・・。」
「・・・・・・それって・・・・・・。」
ロイの言葉に驚いたように問い返すエドワードに、ロイは見る間に朱に染まっていく。
「べ・・・・別に、鋼のに合わせたわけじゃなく、たまたま・・・・、たまたま私の休みと、鋼のが帰ってきたのが重なっただけだぞ!」
ロイは立ち上がって、ビシッとエドワードを指差しながら言い放つ。
しかし、赤く染まってしまった頬は隠しようがなく。
今日のロイの休みは、エドワードの居るときにあわせたと言っているようなものだった。
「・・・・・・ありがとな。大佐。」
エドワードは絶対の確信を持って、満面の笑みで言う。
いかにも偶然という風を装っても、大佐なんて地位にいる以上ロイが簡単に休みなど取れないし、取っていないことはエドワードとて熟知している。
本来、偶然などありえないはずなのだ。
忙しい仕事よりも、自分との時間を優先してくれたロイの気持ちが、エドワードには何よりも嬉しかった。
一方ロイとしては、エドワードに笑顔で言われてしまえばそれ以上の否定は出来なくなる。
事実エドワードと過ごす為に無理矢理休みを取ったのは、紛れもないのだ。
まさか、こんな風に役に立つとは夢にも思わなかったのだけれど。
「じゃあさ、大佐!せっかくの休みなんだし、今日は俺とデートしようぜ!」
「はッ!?」
エドワードの突拍子もない提案に、ロイは素直に驚きの声を上げた。
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