Rot und Blau 11



「どうして・・・・・・」
予想もしなかった突然のエドワードの出現に、呆然と目を見開いたまま、ロイが呟く。
「どうして・・・って、ずっとあんたを探していたからに決まってるだろ?ロイ」
やっと見つけた、そう言ってエドワードはクスリと笑う。
その笑顔は、ロイがエドワードに別れ告げる前となんら変わりない。
一方的に別れを告げたロイを非難するわけでもなく、エドワードの口調は優しかった。
「あんな一方的にもう会わないって言われたって、納得できるわけないだろう?だからあんたにもう一度会って、ちゃんと話がしたかったんだ」
「・・・・・・・・・・私にはもう、君と話すことは無い」
どうして。
どうしてエドワードは、これほど人を真っ直ぐな眼差しで見つめられるのか。
隠し事ばかりしてる自分を知っているから、その眼差しは余計にロイを後ろめたい気分にさせる。
理由も告げず、ただ頑なにエドワードを拒否するロイに、エドワードはゆっくりと近づいた。
「・・・・・・・・・そんなんじゃ納得できない」
何かを恐れるように視線を合わせないロイを怯えさせないように、そっとエドワードはロイの両腕を掴む。
「・・・・・・・・離せ・・・・」
エドワードに両腕をつかまれたロイは、エドワードの手から逃れようと身体をよじる。
だがその顔は相変わらずエドワードの方を向くことは無く、それがエドワードを悲しい気持ちにさせる。
「ダメだよ。まだ話が終わってない」
「私は終わっている!離したまえ!!」
小柄な身体の割に似合わず、エドワードの束縛は思いがけない強さで、捕まれた腕はロイがもがいたところでびくともしない。
「なぁ・・・あんた、そんな目を逸らして話すような人間じゃなかっただろ?一体何があったんだよ?俺が何かあんたを怒らせたのか?」
「・・・・・・そういう問題じゃないんだ!!」
「じゃあなんで?何があんたを苦しめてるんだよ?何も無いって言うなら、なんでそんな辛そうな顔してんだよ・・・・・」
まるで自分が痛みをうけているかのように、辛そうな表情を浮かべたままエドワードはロイを揺さぶる。
それでも反応を返さないロイに、エドワードは途方に暮れる。
「何かあるなら言ってくれよ・・・・・」
ぎゅうとロイを抱きしめ、エドワードが切なく訴える。
「俺じゃ力になれないことなのかもしれないけど・・・。辛そうなロイを、これ以上見ていたくないよ・・・・」
「違う・・・・違うんだ、エドワード・・・・」
抱きしめる腕を拒絶するように、両手でエドワードの肩を押し返しながら、ロイは首を振った。
自分には、そんな真っ直ぐな思いを向けて貰う資格がないのだ。
頼むからそれ以上優しくしないで欲しい。
このままでは、せっかく固めた決心が、揺らいでしまうから。
明かなロイの拒絶に、顔を上げたエドワードが表情を曇らせる。
「・・・・・・・・・・・違う?それじゃあやっぱり俺の告白が迷惑だった?」
もう他に思い当たることが無いと、エドワードは自分が一番恐れていた質問をする。
これで肯定されてしまったら、しばらくは立ち直れないかもしれないと思いながら。
「それは違う!」
傷ついたように目を伏せるエドワードに、ロイは考えるよりも先に否定していた。
真実は語ることが出来なくとも、エドワードにそんな悲しい瞳はさせたくなかった。
「じゃあ・・・・なんで?俺が組織に関わる人間だから?やっぱり怖くなった?」
ロイがはっきりと否定してくれたことに安堵しつつ、エドワードはまた別の疑問をロイに投げかける。
自分が嫌われたわけではないのは分かったが、問題は何一つ解決していない。
また振り出しに戻っただけだ。
エドワードの問いかけに、ロイは再び小さく首を振った。
こんな状況に陥ってもなお、自分がエドワードと敵対する組織に所属するものだと告白できない自分自身の弱さにロイは困り果てていた。
ただ一言。
自分の身分を告げるだけでこ関係は清算できるのに、終わりにしたくないと言う思いは、確かに存在していて。
相反する思いの狭間で、ロイは揺れていた。
正直に話して、ずっとエドワードを騙し続けてきたのだと知られるのが怖かった。
今更この関係を続けることが出来ないのは、自分が一番良く分かっているのに。
いや、分かっているからこそ、真相を伝えなければ彼の心の中に残れるのではないかなんて、一縷の望みに縋ろうとしているのだ。
例えもう会えなくても、言葉を交わすことができなくても、彼の心の中に憎しみの対象で残りたくなかった。
しかしそのロイの微かな望みはエドワードの次の一言に、粉々に打ち砕かれてしまった。
何一つ答えようとしないロイに、エドワードは静かに問いかけた。
「・・・・・・・ロイが俺を拒否するのは、俺がロートの人間で、あんたがブラオの人間だから?」
まるで、当たり障りのない世間話でもするか様に淡々と。
エドワードはそう、問いかけたのだ。





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