Rot und Blau 13
「なんでだよッ!?どうして一緒にいてくれねーんだよっ!!」
たった今俺を好きだって言ってくれたのにどうして?と、疑問の声を上げるエドワードに、ロイはゆるゆると首を振る。
「エドワード・・・。君だって分かっているだろう?大きな組織は二つもいらない。ブラオとローとは互いにつぶしあうことになるだろう。私と君は敵対関係なんだ。一緒にいられるわけなどない・・・」
「俺がロートの人間で、あんたがブラオの人間だから?そんなんで納得出来る訳ないだろッ!?」
そんなこと到底受け入れられるわけが無いと噛み付いてくるエドワードに、ロイは困ったように苦笑を浮かべる。
「エドワード分かってくれ・・・」
「分かるわけねぇよッ!なんでそんなモンに気持ちを左右されなきゃなんねーんだよ!?。組織なんて俺には関係ない!」
「君に関係なくても、私にはあるんだっ!」
らしくもなく声を荒げるロイに、エドワードはピタリと動きを止める。
傷ついたように自分を見上げる黄金の瞳に、はっと我に返ったロイは小さく謝罪の言葉を口にする。
「・・・・すまない・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
そのままエドワードが押し黙ってしまったため。二人の間に気まずい沈黙が流れる。
今まで短い時間とはいえ共に過ごした時間に、こんな重苦しい沈黙が落ちたことは、いまだかつてなかった。
いかに初めて出会ったときから、自然な会話が二人の間で成立していたのか、ロイは今更気が付いた。
それは自然なことだと、疑問にすら思わなかったけれど。
きっと、最初から惹かれあっていた二人だったからこそ、成し得たものだったのだ。
(まあ・・・・・・今頃気がついても、すべては手遅れだがな・・・・)
ロイが自嘲の笑みを浮かべたとき、不意にエドワードが今までの沈黙を破って声をかける。
何かを決意した瞳に、ロイは僅かにたじろぐ。
「・・・・・・・ロイと俺が敵同士って言うなら。それが俺を受け入れられない理由なら。俺がロートを抜けたら・・・・・ロイは俺と一緒にいてくれる?」
「・・・・・・・・・なッ!?」
エドワードの信じられない言葉に、ロイは言葉を失う。
「俺は別に組織に絶対抜けられない理由があるわけじゃないし・・・。ロイと一緒にいられるんだったら、組織を抜けることなんてなんでもない」
組織よりも、自分の好きになった人と共にいたいと、迷いの無い瞳でエドワードは告げる。
まだ幼さを残す少年の、純粋な考え方にロイは小さく笑う。
組織とは、そんなに単純なものではないのに。
まだ少年には、組織の強大さが、そして恐ろしさが分かっていないのだろう。
「馬鹿なことを言うな。そんなに簡単に、組織を抜けられるわけなどないだろう?」
組織の一員となってしまえば、否応なしに組織の情報を握ることになる。
情報を知った人間を、組織がそう簡単に逃がしてくれるはずなどない。
一度足を踏み入れてしまったら、そう簡単には抜けられないのが組織というものなのだ。
「馬鹿なことなんて言ってない。俺は本気だ」
ロイを見つめる瞳はどこまでも真っ直ぐで、エドワードが本気だというのは本人が言うまでも無くロイにも分かっていた。
「君は組織というものを甘く見すぎている。やめるといって、はいそうですかといって簡単に逃がしてくれるほど、組織は甘いものではないのだよ?」
「そんなのはやってみなくちゃわからないだろ?やってもいないうちから、諦めるつもりかよ?」
「私は君に組織を抜けてもらおうなんて思ってないし、望んでない」
「でも・・・・・・ッ!」
まだ言い募ろうとするエドワードを、ロイは両肩を掴むことで遮る。
「何より、私が君が裏切り者呼ばわりされるのが嫌なんだ」
「・・・・・・・・ロ・・・・・・・・」
皆まで言わせず、ロイはエドワードの唇を己の唇を重ねることで黙らせる。
突然のロイの行動に固まるエドワードに、ロイは重ねるだけだった唇を離すとにこりと笑った。
「私は、いつも真っ直ぐに生きている君が好きだよ」
そう。組織に属していても、己の確固たる信念を持ち、力強く生きているエドワードだからこそ、ロイは惹かれたのだから。
「私の為なんかに、人に追われるような人間にならないで欲しい」
「ロイ・・・・・」
エドワードの身を案じるからこそ、そう告げねばならないロイの気持ちを感じ取って。
それ以上エドワードは、ロイにかける言葉を失ってしまった。
「ずるい。あんた・・・・本当にずるいよ」
正論で逃げ道を塞いで、自分を容赦なく切り捨てておいて。
それで、そんな泣きそうな顔するなんて。
泣きたいのはこっちだと、エドワードは唇をかみ締めた。
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