Rot und Blau 14



「どうしても・・・・・・どうしても、ロイと一緒にいちゃダメなのかよ・・・」
互いに敵対する組織に属している以上、一緒にはいられないと告げられて。
ならば組織を抜けると言えば、それもだめだと拒否されて。
しがらみに雁字搦めの状況に、エドワードはため息を落とす。
「・・・・・・・・・ああ」
静かに頷くロイに、エドワードは思わず声を荒げる。
「こんなの絶対におかしいだろッ!!せっかくロイも俺のこと好きだって言ってくれたのに・・・。互いの気持ちは同じなのに、終わりにしなきゃいけねーなんて・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなにロイにとって、組織は絶対なのか?」
沈黙するロイにエドワードが問いかけると、ロイは不意に鋭い眼差しでエドワードを見下ろした。
今までの穏やかな瞳とは違い、殺気を孕んだ漆黒にエドワードはゾクリと背筋を震わせる。
「ああ。組織は私にとっては絶対だ。たとえ相手が君であろうと、組織から殺せといわれたら、私は君を殺すことも厭わない」
相手の瞳に本気を見て取って、エドワードはぎゅっと両手を握り締める。
「どうして、そこまで・・・・・・・」
好きな相手と組織。
天秤にかけたら、迷わず自分が選ぶのは組織だと答えるロイに、エドワード聞かずにいられなかった。
「組織は・・・・・・組織のヘッドには、私は多大な恩がある。身寄りのない私と、友を引き取ってここまで育ててくれた・・・・。私には彼を裏切ることなど出来ない。そもそも、迷うことすら許されないのだ」
この身は私のものであって、私のものではないのだとこたえるロイをじっと見つめていたエドワードは、やがて小さく呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか」
その諦めの吐息と共に呟かれた言葉に、ロイは弾かれたようにエドワードの顔を見る。
「ロイがそこまで言うなら、俺がどうにかできる余地なんてないのかな・・・・」
「エドワード・・・・・・」
「俺にとってロイは、絶対になくしたくない人だったけど・・・・。ロイにとっての俺はそうじゃなかったんだね・・・」
俺にとっては何を引き換えにしてもいいほど、あんたは大切な存在だったんだよ・・・と告げるエドワードに、ロイの心は締め付けられる。
ロイにとっても、エドワードははじめての、ロイの心を奪った相手だった。
そう、告げられたら、どんなに良かっただろう。
何もかも捨てて、差し出された手を取れたらどんなに――――。
「ね、最後にキスして良い?」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
「ごめん。だめだっつってもする」
そう言ってエドワードはロイの胸元を掴むと、強引にロイに口付けた。
「んんッ!」
唐突な口付けは、しかし、触れたときの乱暴さが嘘のように、エドワードは優しくロイの唇に触れた。
最初はためらうように触れるだけだった口付けも、ロイが抵抗しないのを感じてエドワードはゆっくりと口付けを深めていく。
「――――ん・・・・・ふぅ・・・・っ」
歯列を割って侵入した舌に、自分の舌をからめ取られてロイの口から甘い吐息が漏れる。
交わす口付けの甘さに、徐々に膝から力が抜けて思わずエドワードに縋ろうとして、ロイは先ほどエドワードが告げた『最後』という言葉を思い出して、縋りかけた手をぎゅっと握り締める。
「は・・・・・んん・・・・・・」
長い口付けに満足したのか、そっとエドワードが唇を離すと、長い口付けを証明するかの様に二人の間を銀糸が繋ぐ。
それを指で優しく拭いながら、エドワードは寂しげに微笑んだ。
「やっぱり、俺あんたのこと凄く好きだ・・・・・・。これで、最後になんてしたくない・・・・ッ!」
ロイをしっかりと抱きしめて、エドワードが苦しげに呟く。
「ホントはあんたのこと、縛り付けてでも連れて行きたい・・・・・・」
ロイは胸に顔を埋めたままのエドワードの頭を、あやすように優しく撫で。
何も言わず、エドワードの次の言葉を待つ。
「だけど、無理矢理連れていっても、あんたがあんたじゃなくなっちまうのは分かっているから・・・」
自分の信念を貫くロイだから。
その生き方を無理矢理変えてはダメなのだと、分かっているから。
だから、そんなことはしないと、エドワードは静かに言った。
ゆっくりとロイから身体を離して、エドワードはじっとロイを見つめた。
「だから、さよならだな・・・・。ロイ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」
ついにエドワードから告げられた離別の言葉に、ロイは頷くことしか出来なかった。
「そんな顔すんなよ。あんたから別れるって言ったんだからさ・・・」
そう言って苦笑するエドワードに、ロイは一体いま自分はどんな顔をしているのだろうと思う。
自分では平静を保っているつもりでも、どうやらそうではないらしい。
「なんだか、泣きそうな顔してる・・・・」
「・・・・・・・そんなこと・・・・・・」
「ほんと、ロイは最後まで意地っ張りだな」
最後まで認めないロイに呆れたように笑いながら、エドワードはゆっくりとロイから離れていく。
数歩下がったところで、エドワードはクルリとロイに背を向けた。
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・」
そのままゆっくりと去っていく背に、声をかけたい衝動をロイは必死に堪えた。
自分から彼の手を離したのだから、彼を引き止める権利はないと、自分に強く言い聞かせる。
「そうだ・・・・ロイ」
数歩離れたところで、不意にエドワードが立ち止まる。
しかし、エドワードは振り返ることなく、ロイに背を向けたまま独り言の様に言った。
「ロートのヘッドの名は、ヴァン・ホーエンハイムって言うんだ。そうあんたのヘッドに伝えておいて」
「・・・・・・・なッ!?」
最後の最後でとんでもない置き土産をしたエドワードに、ロイは驚きの声を上げる。
「じゃあな」
だがエドワードは動揺するロイに構わず、言いたいことを言うとそのまま歩みを止めることなく行ってしまった。
「・・・・・・・・・・・どういうつもりだ・・・・・エドワード・・・・・」
エドワードの真意が分からなくて、一人取り残されたロイは呆然とそう呟くことしか出来なかった。




 BACK