Rot und Blau 6
「ところでさ、ロイこの後まだ時間ある?」
ロイの一言ですっかりと機嫌を直したらしいエドワードは、にこにこと笑いながら問いかける。
「この後?・・・・・もう少しだったら、時間は大丈夫だと思うが・・・」
「じゃあさ、博物館に行ってみないか?」
エドワードの思わぬ提案に、ロイは驚いたようにエドワードを見つめた。
「博物館とは・・・君にしては珍しいところを・・・」
「・・・・あんた、さりげなく失礼だな」
そう口では言いつつも、クスリと笑いを漏らしたエドワードは、本気で怒っているわけではないらしい。
「なんか、今、博物館でエリキシルがどうのとか、錬金術に関係のある特設コーナーがあるんだってさ。あんたそういうの興味ありそうじゃん?」
何気ないエドワードの言葉に、今度こそ本気で驚いてロイは大きく目を見開く。
ロイはエドワードに自分が錬金術師だとも、錬金術に興味があるとも告げていない。
錬金術という単語が会話に登場したと言えば、初めて出会ったあのときぐらいだというのに。
エドワードは元々ロイの興味が何にあるのかだとか、どんなものが好きなのかとか、的確に見抜いてくる節はあったけれど。
まさか、まだあのときの会話を覚えていたなんて、夢にも思わず、今回は本当に驚かされてしまった。
「・・・・・どうかした?」
黙り込んでしまったロイを不思議に思って、エドワードが覗き込めば、不意に近くなった距離に、慌ててロイは視線を逸らした。
「な・・・なんでもない!」
逸らしてしまってから、なんでこんな事で私が慌てなければならないのだと思うけど、それを口に出すことなんて、出来るはずもない。
「確かに面白そうな企画ではあるけれど・・・。そんなものを見て、エドワードは楽しいのかい?」
錬金術師でもない人間が、難しい文献しかない博物館に行ってもとても楽しめるとは思えない。
錬金術には専門用語も多く、一般人が聞いてもちんぷんかんぷんなはずだから。
しかし、エドワードはロイの心配など無用とばかりに、にっこりと笑う。
「ああ、ロイが楽しければ俺も楽しいから」
言い切ったエドワードに、ロイは軽い眩暈を覚える。
そういう類の言葉は、自分の好いた相手に使う言葉であって、けっして自分に向けて使われる言葉ではないはずだ。
「ははは、エドワード。そういうことは、女性の皆さんに対して使う言葉だぞ?」
ここは年長者として、ご婦人に対する接し方をレクチャーするべきなのだろうか?と疑問符を浮かべながらエドワードに告げれは、エドワードは途端不機嫌そうな顔になる。
「・・・・・ホント、ロイってにっぶい・・・・」
がっくりとうなだれる姿を見ても、ロイにはなんでエドワードが落ちこんでいるかがわからない。
「エ・・・エドワード?私は何か気に障る事を言ったかい?」
「いいよ、いいよ。あんたが鈍いのは今に始まった事じゃないから・・・」
遠い目でひらひらと手を振られても、ロイとてあんまり大丈夫と言う気はしないのだが・・・。
「それで、次の行き先は博物館でいい?」
気を取り直して改めて問いかけてくるエドワードに、ロイはしばし考え込む。
「・・・・・そうだな。ちょっと見てみたいな」
やはり錬金術師である以上、そう言った文献には目がないのだ。
エドワードが付き合ってくれるというなら、博物館に出かけてみるのも悪くない。
「じゃ。決まりだな」
エドワードはそういいながら、善は急げとばかりに立ち上がった。
「今回は、俺の払いでいいんだよな?」
「・・・・・ああ」
伝票を掴むエドワードにロイは、しぶしぶと言った風に頷く。
それこそ出会ったばかりの頃は、どちらが支払うかで延々揉めていた二人だが。
きりがないので、二人で交互に支払うと言う形で、今は折り合いをつけているのだ。
「それじゃ、ロイは先に外に出てて。俺もお金払ったらすぐ行くからさ」
「・・・・・分かった」
なんだか完全にエドワードに仕切られている気もしないでもないのだが。
それでも嫌な気分が全くしないのが、ロイには不思議だった。
「子供というのは、実に不思議な生き物だな」
観点のずれた解釈にうんうんと頷きながら、ロイはエドワードに言われるままに、外に出て行くのだった。
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